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コラム

NURBSボリュームを用いたインスタレーションの
設計

2025.07.29

パラメトリック・ボイス

               コンピュテーショナルデザインスタジオATLV 杉原 聡

前回のコラムでは、NURBSボリュームを扱うプログラムの作り方について記したが、今回は
それを活用し、以前のコラムで記したようなMCエッシャーをテーマにしたCAADRIA2025
ワークショップのためのインスタレーションの設計過程を紹介する。本インスタレーションの
設計は、ワークショップを共に教えたviccの壁谷健一氏と篠原岳氏と共同で行われた。

CAADRIA2025ワークショップ企画応募時に一例として提案したインスタレーションは、正四
面体と正八面体が積み重なる構造(図1a)を元に円弧状のパネルを割り当てたもの(図1b)
であった(このような構造のセル化のアルゴリズムはこちらを参照)。しかし企画採択後に再
検討を行い、この案における60度で接合するパネル同士の加工の難しさや150枚以上あるパ
ネルの製作と組み立ての時間が問題となりうるため、より効率的な製作と組み立てが行える案
が検討された。

 図1ワークショップ企画応募案におけるインスタレーション例

 図1ワークショップ企画応募案におけるインスタレーション例


加えて、図1bのインスタレーションでは、NURBSボリュームが得意とする連続的な変形が活
かされていないため、その特性も取り入れつつ、なおかつ複雑になりすぎないよう次のような
NURBSボリュームを考えた。まず14x14x14個の制御点からなるUVWの次数がそれぞれ2で
ある立方体のNURBSボリュームを生成し(図2a)、それらの制御点のうち一つの角にある
8x8x8個の制御点を50%に縮小してNURBSボリュームを変形した(図2b)。
 

 図2 立方体の角の制御点を50%縮小したNURBSボリューム

 図2 立方体の角の制御点を50%縮小したNURBSボリューム


今度はこのNURBSボリュームを元にしたパネルの生成について考える。ここでは単純なパネ
ル分割を考え、この例で示されるようなUVW空間での等分な直交分割を行った。また図1bの
応募時のインスタレーションと似た印象に近づけるために図2のNURBSボリュームの立方体
の対角線がZ軸と一致するように斜めに配置した(図3a)。この直交分割によってNURBSボ
リューム内部に小さな立方体状の領域や、変形されたNURBSボリュームの曲面(曲体?)に
沿って変形された領域が図3bのように生成された。

 図3 NURBSボリュームの回転とUVW空間で等分に直交分割した立方体状の領域

 図3 NURBSボリュームの回転とUVW空間で等分に直交分割した立方体状の領域


次にインスタレーションを木板で製作することを前提に、図3bに含まれる曲面部分を除きつ
つ、インスタレーションの全体の形態とバランスを整えるために正方形状の平面を図4aのよ
うに追加削除したそしてZ座標に応じて台形から円弧に変形するパネルモジュール(図4b)
を考え、一つの正方形状の領域に1~4個のモジュールをランダムに割り当てた(図4c)。
なお、台形状の領域ではその形状に応じてモジュールも変形されている。

 図4 パネルモジュールと割り当て領域

 図4 パネルモジュールと割り当て領域


また図4cのように割り当てられたパネルモジュールは構造、接合部、組み立て手順を考慮し
つつ組み立て効率を高めるために、可能な限り多くのモジュールを連結させて、大きなパネル
単位にまとめた(図5)。
 

 図5 パネルモジュールの連結

 図5 パネルモジュールの連結


これらの木製のパネルの接合にはほぞとL型金具を使用し、主なほぞの種類は図6aの3種類で
ある。どの種類を用い、ほぞ/ほぞ穴をどちらの面に割り当てるかを自動判定してほぞとほぞ
穴の形状を生成するアルゴリズムの作成には今回時間が足りなかったため、まず全種類の形状
を全ての接合箇所にアルゴリズムで生成し(図6b)組み立て手順を考慮しながら種類を手動
で選択し、ほぞとほぞ穴を含んだ各パネル形状を決定した。また、板は接するがほぞを作らな
い箇所には、組み立て時の位置合わせを容易にするための穴を開けたちなみに材木のCNC
加工経験が豊富な篠原氏よりほぞ穴は0.3mm大きくするのが良いとアドバイスを受け、ほぞ
穴形状はほぞの大きさよりも0.15mm外側へオフセットした。

 図6 接合部のほぞとほぞ穴

 図6 接合部のほぞとほぞ穴


最終的に決定したパネル形状を、1820mm x 910mmの三六判の木板に効率よく配置・パッ
キングし、CNC加工のためのデータファイルを作成した(図7)。このデータをもとに、
CAADRIA2025 Workshopsの会場である東京大学のT-BOXにて、ShopBotを用いて
KUMA LABの平野利樹氏にパネルを切り出してもらった(図8)。

 図7 CNC加工ファイル(青線が外周の輪郭線、赤色が内部の輪郭線)

 図7 CNC加工ファイル(青線が外周の輪郭線、赤色が内部の輪郭線)


 図8 ShopBotによるパネルの切り出し

 図8 ShopBotによるパネルの切り出し


このようにしてワークショップ参加者の作品展示台となる水平のパネルを含む49枚のパネル
がShopBotによって切り出された。切り出された木製パネルはワークショップ会期中に壁谷氏
と篠原氏の主導で組み立てられた。なお篠原氏の推奨どおり0.3mm大きく加工したほぞ穴は、
取り付けがスムーズでかつしっかりと噛み合う絶妙な寸法であった。

こうして完成したインスタレーションはワークショップ参加者(Sohyun Jin, Riku Kawabe,
Chun Liu, Vilbert Vivaldi Venus, Cheng-An Wang, Anisya Maharaniの6名)が設計・製作
したNURBSボリュームの分割アルゴリズムとデジタルファブリケーションを用いた模型作品と
共にCAADRIA2025ワークショップ展覧会にて展示された(図9、10)。最後に、インスタ
レーションを共同設計し、製作と組み立てに尽力いただいた壁谷氏と篠原氏との記念写真を記
載する(図11)。
 

 図9 完成したインスタレーションとワークショップ参加者作品

 図9 完成したインスタレーションとワークショップ参加者作品


 図10 インスタレーション内部

 図10 インスタレーション内部


 図11 インスタレーションとの記念写真。左よりvicc壁谷氏、筆者、vicc篠原氏

 図11 インスタレーションとの記念写真。左よりvicc壁谷氏、筆者、vicc篠原氏

杉原 聡 氏

コンピュテーショナルデザインスタジオATLV 代表