カスタマイズの醍醐味
2016.05.10
パラメトリック・ボイス 竹中工務店 石澤 宰
中学生の頃、Macintoshにハマっていた私のひとつの楽しみは、雑誌の付録CD-ROMに収録さ
れたフリーソフトを片っ端から試すことでした。インターネット夜明け前、Nifty-Serveにア
ナログモデムで繋いでいる状態ではダウンロードはなかなか思うにまかせず、雑誌のフリーソ
フト特集には心が躍りました……などと書くといたずらに自分の年齢が気になります。過去志
向も大概にしなければいけません。
その特集にはだいたい、様々なユーティリティに混じって、インターフェイスをカスタマイズ
するソフトが多数含まれていました。メニューバーにクリスマスの電飾がぶら下がったり、画
面に目玉が現れてカーソルを追いかけたり……。何の実用性もないのですが、ただ試すという
ことそのものがエンターテイメントでした。これは私が高校生になった時、携帯電話のアンテ
ナ(当時の電話にはアンテナがあったのです、伸びるやつが……)を発光するものに替えたり
したこととおそらく類似の現象です。ただiPhoneやMacBookに華美なケースやステッカーを
着けるのはあまり好きではありません。何でもゴテゴテと盛るのが好きというわけでもないよ
うです。
さて、ソフトウエアにはアドオンが入手可能なものが多く存在します。多くのソフトではサー
ドパーティ製のアドオンも活発に開発されていて、個性豊かなアドオンを試しているとまた中
学生の時の自分に戻ってしまいます。Garagebandのフリー音源など試し始めるとあっという
間に1日が終わります。
これが趣味のものなら自分で試していれば良いのですが、BIMのアドオンとなると話は別です。
痒いところに手が届くツールというのも実際沢山ありますが、実装できることを知っているの
と知らないのとでは大違いになるものもたくさんあるからです。
例えば、アメリカでのBIM普及の要因の一つはLEED関連のシミュレーションパワーを大きく
強化した点にあると考えられます。CASBEEはLEEDとは異なるものの、日本でも環境設計に
対する社会的要請が高まっていることは同じで、CASBEEに対応したツールも複数存在してい
ます。また、天空率や平均地盤面の計算、三斜求積などの日本独特の法規への対応も進んでき
ています*1*2。
一躍有名になったGrasshopperもRhinocerosのアドオンですし、Grasshopper上で作動する
アドオンも山のようにあります*3。 同様にRevitにも先日Version 1のリリースされた
Dynamoがあり、プロジェクトで必要なカスタマイズは労少なくして可能になってきました*4。
時代は確実にオープンソースに向かっていて、ある一人の努力を他の人が繰り返さなくて良い
ようになりつつあります。受け手にはそれを探すだけのリテラシが求められますが、難しいこ
とはありません。そういうツールがきっとどこかにあるはずだ、と発想することです。
そもそもソフトウエア自身もある程度のカスタマイズ機能を有しています。地味なところでも、
クイックアクセスツールバーをカスタマイズするだけでも作業性は大きく改善されます(特に
これをおすすめするのはBIMとは関係ありませんがPowerPointです*5)。また、パレットの
多いモデリングソフトウエアではウインドウの配置設定は保存すべきです。
カスタマイズすることで周りの人と異なる環境になることや、ソフトウエアがバージョンアッ
プした際に互換性の問題が出ることはデメリットとして考えられ、敬遠するされることもあり
ます。例えばキーコマンドの追加や変更も可能ですが、個人的にはあまりやりません。その操
作に慣れると、人に操作を聞かれた時に教えづらくなるからです。
何かを買ってきたままの状態で使うことを英語で「out of the box(箱から出したままで)」
と表現することがあります。Out of the boxで使うことにはある種の美学がありますが、こと
仕事の道具に関して言えば、基本的にはどんどんカスタマイズすべきだと私は思います。手馴
染みの良さは必ず愛着につながるからです。
CD-ROMならぬ現在、アドオンはソフトウエア側から探せばすぐに見つかります。刃を研ぐこ
とは「7つの習慣」その7です*6。脱線モードに入りがちになるのはご愛嬌ですが、それも我々
が建築雑誌を読み耽っているうちに時間が過ぎてしまうようなもの、と私は考えています。
*1 Revitお勧めExtentions
*2 ARCHICADアドオン
*3 food4Rhino
*4 Dynamo Packages
*5 クイックアクセスツールバーをカスタマイズする
*6 7つの習慣