実務に即した合理的なBIMオブジェクト整備の
あり方2
2025.06.12
パラメトリック・ボイス 日本設計 吉原和正
前回のコラムでは、設備の実務に則したオブジェクト整備のあり方について、今までのジェネ
リックオブジェクト、メーカーオブジェクトという切り分け方だけでは実態にそぐわない場面
が出てきているため、設計初期から利用可能な「汎用オブジェクト」と、設計後半から利用す
る「設計用標準オブジェクト」、そして施工を中心に活用する「メーカーオブジェクト」と
「施工用標準オブジェクト」。これらを機種の特性を踏まえながら整備していくことが、設備
分野においてBIMを効果的に活用していく上で重要な取り組みになるという考え方をお伝えし
ました。
今回もこのテーマで引き続き、お伝えしていきたいと思います。
設備の実務者を中心にオブジェクト標準のあり方を議論していく中で、BIMオブジェクトを作
成する上では必須となる幅や奥行、高さなどの形状情報について、設計段階ではこれら外形寸
法が本当に必要なのだろうかという議論が活発に行われました。
確かに設備図を作成する上では、ダクトや配管類のサイズは記入するものの、機器については
外形寸法の数値を図面に明記することはほとんどありませんでした。一応CADで計測すること
は可能ですが、平面図の機器寸法はあくまで目安でしかなく、図面縮尺によっては実寸では見
えにくくなってしまうので図面表記上のシンボルサイズにしているものも結構多い状況です。
積算業務においては、搬入据付費算出に機器の外形寸法が必要になるのですが、設備の設計図
には明示していないというのが実態かと思います。
そして、そもそもこの機器の外形寸法とは何を示すのか。これを定義した明確な基準が無いの
も事実です。
機器のケーシングに内包されていない、電源ボックス等の扱いや、天井面に出っ張ってくる
フェイス部分の扱いなど、どこまでを外形寸法に含めるのか。その考え方を統一すること自体
困難であることや、どちら向きを幅方向に、どちら向きを奥行方向の寸法に扱うかについても、
機種によってまちまちだったり、場合によっては同一機種でもメーカーによって異なることも
あったりで、これらの統一には相当な労力と調整期間が必要になってしまいます。
一応、BIM以前から二次元のオブジェクト標準整備を進めてきていたSTEM(ステム:
Standard for the Exchange of Mechanical equipment library data)においては、ある程
度この形状情報のルールが規定されていましたが、ここから漏れている機種も多くあります
し、3次元のルールに至っては一部に留まっている状況です。そのような状況の中で、先行し
てジェネリックオブジェクトやメーカーオブジェクトが提供されてきているので、これを後か
ら統一するために修正させることは相当難儀だったりします。
仮に国内で統一ルールを作成し対応してもらったとしても、近年国際ルールで照明器具の形状
情報の扱い方が示されてきていたりするので、後でまたやり直しになってしまう危険性が高い
気がしています。
このような状況があるので、形状情報のルール化はある程度割り切って進めざるを得ないと
思っているところです。
形状情報を割り切って簡素化してしまって、幅、奥行、高さの外形寸法だけに絞ってあくまで
参考値として扱い、性能や仕様などの属性情報を中心にオブジェクトを作成することができれ
ば、BIMオブジェクト整備や更新作業は大幅に省力化することができます。
さらに、機器のラインナップについても、BIMソフトウェアで扱えるBIMオブジェクトとして
整備するのではなく、BIMオブジェクトを全インスタンスに振り切ってしまって、表計算ソフ
トで扱える外部データとして機器ライブラリーを整備すれば、BIMオブジェクトの作り込み方
や、ラインナップは相当シンプルに構成することが可能になります。
このような考え方で整備したものが「汎用オブジェクト」と呼んでいるもので、この「汎用オ
ブジェクト」を使えば、どの機種、形式の、どの能力のオブジェクトを選択したら良いのかな
どをいちいち悩まずに、設計初期の基本計画や基本設計時点でもBIM上に配置することが可能
で、形状の詳細度をとやかく言わずに、LOI(Level of Information)に重きを置けば、実施
設計の最後まで利用できるのではないかと考えています。
この「汎用オブジェクト」については、現在RUG内で共有してその利用方法について意見集約
をはかっているところで、ある程度感触が良ければ年内に一般公開したいと思っているところ
です。
施工においては、さすがにここまで割り切り過ぎた「汎用オブジェクト」では不十分で、施工
で必要となる形状表現や接続位置などを反映したものを整備する必要がある訳ですが、これら
形状情報も含めてパラメータで管理できるようにし、パラメトリックに形状を調整可能なオブ
ジェクトとしているものが、設備BIM研究連絡会で検討を進めている「施工用標準オブジェク
ト」になります。
これら「汎用オブジェクト」や「施工用標準オブジェクト」を利用すれば、メーカーは性能値
や仕様値、一部形状情報の属性情報だけを提供するだけで、表計算ソフトなどの外部データを
介してオブジェクトに値を読み込んでBIMデータに反映することが可能になるので、大幅に
メーカーの負担を軽減することが可能になるはずです。
また、風量や静圧、流用や揚程などで消費電力など仕様値が変わるファンやポンプなどの機種
についてや、温度条件や使用条件で性能値が変わる冷凍機などの機種についても、その選定結
果を数値として取り込めさえすれば、BIMデータに反映することが可能になるので、今まで
BIMに及び腰だったメーカーも対応しやすくなると考えています。
メーカーのスペックを、最新機種も含めて設計に反映しやすくし、建築確認申請や消防同意・
設置届け、省エネ適判に活用可能なように、スムーズにデータ連携していける世界を実現して
いくためにも、これからはオブジェクトにインポート可能な属性情報の値、パラメータバ
リューを整備し、それを取り込む仕組みを構築していくことこそ最優先に進めていくべきであ
ると考えているところです。