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AIがつくる合成BIMは何を変えるのか
2025.12.11
パラメトリック・ボイス 大阪大学 福田 知弘
本稿では、研究論文で明らかになった確かな成果と、そこから考えられる実務への応用や今後
の可能性を分けて紹介します。前者は論文で検証された事実、後者はそれに基づく筆者の考察
です。読者の皆様に研究の実態と可能性をバランスよくお伝えすることを意図しています。
第1章 本論文で示した「事実」:何を実現した研究なのか
2025年10月、学術雑誌「Automation in Construction」オンライン掲載された筆者らの論
文 [1] では、深層学習を用いて合成BIMデータセットを完全自動で生成するフレームワークを
提案しています。目的は、BIM自動生成やAI応用研究に不可欠な「高品質かつ大量の学習用
BIMデータ」を、人手を介さずに整備可能にすることです。
研究の中核は以下の4点です。
① 完全自動化されたBIM生成プロセス
本研究では、深層学習による住宅平面図生成、ルールベースアルゴリズム、Revit API を組み
合わせ、2D平面図から3D BIMモデルを完全自動で構築するフレームワークを開発しました。
生成されるBIMモデルには、壁・床・部屋・開口部等が含まれ、単なる3D形状ではなく、BIM
として扱えるモデルとなっています。
② ResBIMデータセットの構築
上記フレームワークを用いて、1000件以上の2D平面図とBIMモデルの対応ペアからなるデー
タセット「ResBIM」を構築しました。GitHubで公開しています [2] 。
これにより、従来困難であった
・2D-to-BIM技術の客観的な性能評価
・異なる手法間の比較検証
が可能になりました。BIM自動生成分野において、評価基盤を提供した点が大きな成果です。
③ アノテーションツールボックスの開発
生成されたBIMから、
・平面図
・立面図
・意味属性付き図面
を自動出力する注釈ツール群も開発しました。
従来のデータセットでは、立面図が含まれないものが大半でしたが、本研究により、平面・立
面を含む注釈付き図面の生成が可能になりました。
④ 拡張性のあるモジュール構成
本フレームワークは、深層学習モデルやBIM環境を置き換え可能な設計となっており、異なる
データセットやBIMソフトウェア(Revit以外)への展開を想定した、拡張性の高い設計がな
されています。
![図1 複合ネットワークのワークフロー(論文 [1] 図3)](./img/4/0/40191662536370c2f07732f21394741b.jpg)
図1 複合ネットワークのワークフロー(論文 [1] 図3)
![図2 2階建て住宅ユニットのBIM(論文 [1] 図14)。](./img/c/8/c845befb1f2f01db77be56ae2eff847c.jpg)
図2 2階建て住宅ユニットのBIM(論文 [1] 図14)。
第2章 実務への展開(筆者の解釈と将来像)
● BIMは「入力するもの」から「生成されるもの」へ
これまでBIMは、人間がCAD的に作り込むものでした。しかし本研究は、
「BIMそのものをAIが生成できる」
ことを示しています。
将来的には、既存の図面を投入するだけでBIMが生成され、設計者はそれを検証・評価・修正
する立場へと変化していく可能性があります。
● BIMがAI活用の基盤データになる時代へ
ResBIMのようなBIMデータセットが増えれば、
・自動設計
・空間最適化
・設備レイアウト提案
・法規チェックの自動化
といった研究が加速します。
BIMは単なる設計ツールではなく、AIが学習するための「建築知識の集合体」へと役割が変わ
ると考えられます。
● 既存ストック活用への波及効果
既存建物の2D図面からBIMを構築できれば、
・FM(施設管理)
・改修設計
・省エネ解析
・デジタルツイン
といった分野にも波及します。
合成BIMは、「BIM導入の初期コスト」という構造的な障壁を下げる可能性を持っています。
● 結論:本研究の本質的価値
本論文が示した最大の意義は、
「BIM活用のボトルネックは、技術ではなく“データ”である」
という事実を、実証的に突き付けた点にあります。
これまで建築分野では、
「BIMを使いこなせない」
「AIが現場で活かせない」
といった課題が語られてきましたが、本質的な問題のひとつは
“学習用のBIMが存在しない”
ことでした。
本研究は、その根本にメスを入れています。
[1] Liang, X., Yabuki, N., Fukuda, T. (2026). Fully Automated Synthetic BIM Dataset
Generation Using a Deep Learning-Based Framework, Automation in Construction,
Volume 181, Part A, 106584
[2] ResBIM Dataset



























