データあれ (Let there be Data)
2016.05.19
パラメトリック・ボイス NTTファシリティーズ 松岡辰郎
設計や運営で建築をどのように情報化し、建物データとしてどのようにすれば適正に構築・管
理・活用ができるかを考えてその仕組みを作る、という類の仕事に比較的長い期間関わってき
た。今回は建物データの構築について書いてみようと思う。
建築に関する情報のうち、コンピュータで処理するものを建物データと呼ぶことにする。建築
のライフサイクル(設計から撤去まで)のさまざまな場面で建築を理解し、何らかのアクショ
ンに向けた意思決定をする際に、目的に合致した建物データを使うことができれば便利である。VR(バーチャルリアリティ)も、構造解析も、気流シミュレーションも、LCC(ライフサイク
ルコスト)算出も建物データを活用したものである。ロジックとデータがそろって、はじめて
建築のコンピュテーションが成立するのだ。(本来はオブジェクトとして扱うべきかもしれな
いが、ここでは処理とデータを分けて考えてみる)
建物データの構築は、そのための情報収集も含めると意外と手間と時間がかかる。コンピュー
タに仕事をさせれば効率的で高度なことができるのだと思いつつ、そのために大変な思いをし
て建物データを作成していると、これが本当に正しいやり方なのかわからなくなってしまう。
また、苦労して作成した建物データが正しくなければ、それこそ骨折り損である。さらにデー
タベースの管理ツールの操作の煩雑さに心が折れそうになる。せっかく建物データを活用しよ
うとしても、構築と管理と品質確保で疲れ切ってしまうことになるのだ。目的に応じて活用で
きる品質の良い建物データを可能な限り簡単に構築し、それらを分析・活用して本来考えるべ
き「次のこと」により多くの時間を使いたい。
BIMモデルを目的に応じて適正に作成しておけば、必要な建物データを容易に得ることができ
る。さまざまな建物データが建築的に統合されたものがBIMモデルであるとすれば、空間的な
不整合や矛盾が発生せず、品質も信頼性も高い。実際に当社で設計したBIMによる新築プロ
ジェクトのNTTファシリティーズ新大橋ビル(2014年竣工)で、モデルを作成する側の十分な
理解と協力を得ることができれば、竣工以降に必要となる建物データを構築するための負荷が
かなり軽減できることもわかった。しかし、これは設計施工時に作成した建物データを再利用
するということであるから、すでに存在している建築の建物データ構築で利用するのは難しい。
3Dスキャナのようなツールを使ったとしても、膨大な点群データをソリッドな建築の部材に置
き換えるくらいなら、意を決して最初から作成した方が早いかもしれない。建物データの作成
は、新たに作る建築よりも既存の建築を対象としたものが圧倒的に多いのである。
最近のICTの進化は今まで到底できないと思われていたことを実現している。既存建築の建物
データを構築するための現地調査や実測は、今後は建築が自ら教えてくれるようにならないだ
ろうか。IoTというキーワードがそれを実現していくだろう。また、収集した情報を元に構築
する建物データも、人手による作成・入力からプログラムが作成するようになることが期待で
きる。アルゴリズミック・デザインをプログラムによる建物データ作成であると捉えれば、近
い将来、よりシンプルなパラメータでさまざまな建物データを自動生成するアルゴリズムが実
現できるだろう。精緻な現地調査や実測による図面起こしをしなくても、画像や自然言語によ
る建築の説明といったパラメータをエキスパートシステムが理解し、知識やライブラリをもと
にして建築を再構成し建物データを作成する。ディープラーニングを用いた学習が可能となる
だけの蓄積を建築分野はすでに持っている。要素となる技術も大半はすでに実用化されている。
データあれ (Let there be Data) の一言で建物データを手にする時代がすぐそこまで来ている
と感じている。