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コラム

テレビゲームとはもう言わない?

2026.02.19

パラメトリック・ボイス                                   竹中工務店 / 東京大学 石澤 宰


本稿執筆時、ちょうどドラゴンクエストVII ReimaginedのNintendo Switch 2版が発売され
たところで、購入しようかどうしようか激しく迷っています。なにしろドラクエ7といえばオ
リジナルのプレステ版のプレイ時間がシナリオクリアでも70時間超えという超大作。2000年
発売のゲームで当時の記憶も途切れ途切れですが、とにかく迷子になった感触ばかり残ってい
ます。
とはいえ最近のリメイクは何かとすばらしく、ドラクエ1・2の最新リメイク版HD-2Dも単
なる移植ではない様々なポイントに舌を巻きます。原点となるドラクエ1は難易度が大幅アッ
プしてちょっと油断するとすぐゲームオーバーという際どい仕様に。ドラクエ2は仲間キャラ
クターの存在感がぐっと引き立ちつつシナリオにも様々な補助線が足され、ファミコン版では
描ききれなかったより広い世界の出来事も見えるようになり、それらが一本の大きな物語とし
ての感動につながります。はい、この冬ガッツリやりました。この年度末の時期に新作を買う
とまた睡眠時間が危ないッ……!
過去の私のコラムをよく見ると2017年にもドラクエXIがどうのこうの、2021年にもパー
ティー編成がなんのかんのと書いており、なんかこの人ゲーム(それもマリオとドラクエとポ
ケモン)の話ばっかりしてるなと自分でも思います。しかし、小学校2年生の娘が友人を招く
とカービィのエアライダーなどで盛り上がっていて微笑ましく、やはりゲームの力は偉大だと
も感じます。
 
会社での業務や設計・生産のプロセスにゲームの考えを持ち込む「ゲーミフィケーション」は
長く検討しているテーマのひとつであり、また研究室での研究活動でも隣接することの多い領
域です。
私が小学生だった頃、ゲームが好きなあまり将来ゲームの開発者になりたがっていた友人はち
らほらといました。今でもほどほどにゲームが好きな私はそれに近しい感覚で、自らのメイン
フィールドである建築設計や研究にゲームの何かを活かせないだろうか、と考えます。しかし
構想はするものの、どうも前に進みづらい。ゲーム由来の様々な技術、たとえばUnityなどの
ゲームエンジンやTwinmotionなどのリアルタイムレンダラーは身の回りでよく見かけるもの
ですし、それらを使ったアプリケーション形式のシミュレータなどを見ることもあります。し
かしゲームという「形式」、つまり人生ゲームとかカードゲームのような方法で実務的な課題
解決する、というシナリオはなかなか結実せずにいます。
多くの事例はプロフェッショナルなツールとゲーム技術が組み合わせになっていることで、必
然的にゲーム側への要求水準が高くしかしプレイヤーの人口は少なくなってしまいがちです
とくに建築のように、正確な物理シミュレーションを必要とする構造設計や環境設計、ないし
は社会全体のモデル化が必要なサーキュラーエコノミーなどがテーマに入りやすい領域では、
そもそもその根幹となるエンジンの開発自体が一大プロジェクトです。ではそれら以外の領域
で、建築や建設業が抱える課題をゲームで解くとはどういうことか?
 
これまでに私が関わった事例のひとつに、クラウドファンディングを実施する神社を訪問する
対話型ゲーム、というものがあります。PanoCreatorという360°画像のビューワを改造して
作った短編シナリオゲーム(現在は公開終了)です。歴史ある神社ながら社殿の老朽化が進む
神社の修理費用を募るべく、コロナ禍にあってもその窮状を少しでも体感できるようにと実施
したアイディアでした。
 

 READYFOR クラウドファンディングポータルページより
 ※上記の画像、キャプションをクリックすると画像の出典元のWebサイトへリンクします。

 READYFOR クラウドファンディングポータルページより
 ※上記の画像、キャプションをクリックすると画像の出典元のWebサイトへリンクします。

 
また、竹中大工道具館という博物館のメタバース化では、展示の多言語化や展示物の詳細な
3Dスキャンの展示など、デジタル空間だからこそ可能になる展示のあり方を追求しました。
 

 竹中工務店設計部ホームページより
 ※上記の画像、キャプションをクリックすると画像の出典元のWebサイトへリンクします。

 竹中工務店設計部ホームページより
 ※上記の画像、キャプションをクリックすると画像の出典元のWebサイトへリンクします。


メタバースについて色々と調べていた際、Metaverse as a tool / targetという概念に触れま
した
。メタバースとなる空間そのものに人々が訪問したくなる理由がある場合はメタバースは
目的地 (target)ですが、バーチャル空間内での行為に教育・健康・コミュニティなどの意義が
ある場合にはメタバースは道具 (tool)です。この2つは二律背反ではないものの、どちらに着
目するかの概念の整理は多くの場合に役立ちます。
 
そして宇宙建築に関わるようになった現在、建築とゲームが宇宙を介してつながるという新た
な局面が見えつつあります。宇宙空間や月面は様々なゲームの舞台、とりわけマインクラフト
の舞台として人気があり、JAXAによる月面のマインクラフトワールド、LUNARCRAFTは
2023年にリリースされ、現在でも自由にインポートできるワールドとして公開されています。
こうした宇宙空間や月を舞台にしたゲームは、もちろんそうした空間に没入し擬似的に体験す
ることも目的の一つながら、そこでプレイヤーが何かを達成するための舞台として期待が高
まっているようです。この環境で何かを作りたいからモデリングを学ぶ、共同作業をしたいか
らコミュニケーションを学ぶ、より高度な仕掛けを実現するためにプログラミングを学ぶ。こ
こではメタバースは目的地として訪れるところであり、学ぶための環境・ルールセットという
意味では道具でもある。
 
ミゲル・シカールによる「プレイ・マターズ 遊び心の哲学 (Playful Thinking)」(2019, フィ
ルムアート社)ではこう述べます。
 
 遊びは必ずしも楽しい(fun)ものではない。それはたしかに快を与える(pleasurable)もの
 ではある。 しかし遊びが作り出す快は必ずしも楽しさや気分のよさといったポジティブ
 な質によるわけではない。遊びは、それが私たちを傷つけたり、いら立たせたり、悩ませた
 り、わたしたちに課題を与えたりするときにも、あるいは場合によってはわたしたちが遊ん
 でいないときにすら、快を与えるものになりえる。そういうわけで、遊びを楽しいものとし
 て語るよりも、快を与えるものとして語ったほうがよい。この考えは、世の中に快の無数の
 バリエーションがあることに目を向けさせてくれるだろう。(pp.16-17)

 
青木淳「原っぱと遊園地」(2004, 王国社)が想起されます。あらかじめそこで行われること
がわかっている建築(遊園地)から、そこで行われることでその中身がつくられていく建
築(原っぱ)へ。
ゲームという考えから発想を広げようとするとき、私たちはそれをいかに「遊んで楽しい」も
のにするかと考えてしまいがちです。ではゲームとは楽しいばかりかというと、パズルにしろ
ローグライクにしろ上手くいかないことばかりで、しかしだからこそのめり込んでゆく。
建築とゲームを融合するということは、考えてみれば、私たちが建築に対して感じる「快」と
はなんなのかを再定義し、それを共有可能にするプロセスなしには為し得ないのかもしれませ
ん。そしてそれは往々にして、言葉だけ聞くと不可解で、しかしそれを熱く語る人が確かに存
在する、というような性質のものかもしれません。思えば、人がプレイするゲームの話はそれ
だけ聞いてもどことなくピンとこないけれども自分でやってみたらいつの間にか「どハマリ」
していた。そういうもののような気がします。
 
ゲームの世界で起きていることはファンタジーや驚き興奮発見のようなことだけではなく
進歩感や達成感のような自己効力感、人とのつながりやゲーム内でのステータスの獲得などの
社会的資源、またゲーム内でのコレクションや交換なども含んだ幅広い「経済」です(Burke,
Brian (2014) ‘Gamify’. Routledge)。
建築は魅力的ながら、多くの協業によって成立する実体としての存在であるだけに、ゲームの
形で公開したり共有したりすることに対してハードルがあることは事実です。しかし遊びの力
は強力で、なにしろ本物そっくりだが実在しない都市「佐山県」なるものまで存在するのがマ
インクラフトであり、ゲームの世界です。理詰めでは為し得ないことも時に実現してしまうの
がゲームだとも思います。
 
しかし可能性がある一方で、ゲームに取り込むことで現実の課題やものごとの詳細を過度に単
純化してしまうのには違和感がある時もあります。またゲームは遊びだ、不真面目だ、本質で
はない、と私の小さい頃には言われがちでしたが、今なおそのように受け止められる気配は
残ってもいます。どうすればこの境界を超えられるか、確たる道が見えているわけではありま
せん。しかしだからこそ、そういうゲームとしては取り組みがいがある気もします。そうであ
れば、経験値を積んでレベルアップあるのみ。
 

石澤 宰 氏

竹中工務店 設計本部 アドバンストデザイン部 シニアチーフエキスパート / 東京大学生産技術研究所 人間・社会系部門 特任准教授