研究から実践へ
2016.06.02
パラメトリック・ボイス アンズスタジオ 竹中司/岡部文
岡部 鳥のようにふわりと舞う飛行ロボットが、建築をつくる時代がやってくる。
そんな夢のような世界を提示した作品「Flight Assembled Architecture」は、とて
もセンセーショナルだった。
竹中 建物の3次元モデルデータを基に、飛行アルゴリズムを用いてロボットの動きを作成
し、1500個を越えるブロックを正確に積み上げてゆくインスタレーションだ。
岡部 プロジェクトを手掛けたのはETH(スイス連邦工科大学)のチームで、建築家である
グラマツィオ&コーラーと、エンジニアであるラファエロ・ダンドレア氏である。
そのダンドレア氏が開発した飛行アルゴリズムは、複数のファイルで構成されている。
竹中 ブロックの位置と積み上げる順番の情報を保有した施工用のファイル、施工工程を管
理するファイル、これらの情報を受け取って実際に施工する飛行ロボット、飛行ロボッ
トの動作パラメータ情報を管理するファイル、さらには衝突回避のプログラムと飛行
探索のシステム、これらが連動してロボットの動作が制御されているのだ。
岡部 見応えのあるインスタレーションだけど、その背後の技術が描き出そうとしている、
新しい世界に注目したいね。
竹中 そう、あのわくわくするような光景で使われている技術、単に夢の世界に留まらない。
実はこの技術は、実践的に活用されているんだ。
岡部 物流や小売で革新的なアプローチを展開するアマゾン社。
そんな同社の倉庫管理システムとして、運用されている。
竹中 ダンドレア氏が共同設立したKiva Systemsという会社は、現在のAmazon Robotics
である。
2012年にアマゾンに買収されて以来、アマゾンの物流センターで商品をピックアップ、
梱包、発送するシステムを構築してきた。今では約1万5000台以上ものロボットが、互
いにぶつかることなく倉庫内で作業を行っているのだという。
岡部 なるほど、これだけの技術と実践が伴えば、飛行ロボットで建築をつくることに現実
味を感じてくるね。
竹中 ダンドレア氏が研究拠点とするETHチューリヒ校「フライング・マシン・アリーナ」
には、今日も楽しい世界が広がっている。複数のドローンが協調して物を運ぶ技術を
開発中だ。
岡部 けっして夢物語では終わらせない。
竹中 研究と実践をつなぐ、絶え間ない努力が必要だ。
夢の技術を創造する強い信念が、建築を楽しい未来へと導いてくれるにちがいない。