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データによる意思決定に重要なこと
2026.06.09
ArchiFuture's Eye 竹中工務店 山崎裕昭
「BIMで重要なのはデータだ」「“I“のインフォメーションだ」という話をよく聞きます。た
しかに、モデルの精度や属性の整備は欠かせません。しかし、BIMモデルにデータがきちんと
入っていても、そのデータの価値が発揮できていない状況が起きていないでしょうか?
たとえば、モデル上で納まりが厳しい部分が示されていても、立場上言い出しにくくて会議で
触れられない。工程リスクが見えていても、波風を立てたくなくて“様子見”になったり、「こ
れでできない?」と言われたら、「はい、頑張ってみます」と答えてしまう。もしくは、感情
的になって、「こんなのできるわけない!」と答えてしまう。このような状況では、データは
その価値を発揮しません。
対話が「意思決定」を支える
心理的安全性の研究で知られるエイミー・C・エドモンドソンが、この点を指摘しています。
「言いにくいことを言える場」がなければ、どれだけ精巧なデータ収集の仕組みをつくっても、
肝心な情報は表面に上がってこない。データによる意思決定の前提には、「言いにくいことを
言える場」がある、と述べています。
(参照:ハーバードビジネスレビュー2024年11月号特集『リーダーによる意思決定』より
「データドリブンな意思決定はどこで道を間違うか」、著者:マイケル・ルカ、
エイミー・C・エドモンドソン)
そして、意思決定には、必ず人の解釈が入り、判断が入り、合意形成が入ります。重要なこと
は、この全ての過程において「対話」が求められるということです。
対話の重要性:情報は、対話によって意味を持つ
データは、それだけで正解を教えてくれるわけではありません。数字や情報は事実の一部を写
しますが、背景の文脈、現場の事情、次に打つ手の優先順位までは語りません。だからこそ、
データを前にして「何が起きているのか」「なぜそうなったのか」「次に何を変えるのか」を
言葉にし、すり合わせる必要があります。
対話が成立してはじめて、データは「ただの情報」から「意思決定の材料」に変わります。逆
に言えば、対話が弱い組織では、データがあっても意思決定は変わりません。どんなにいい
データがあっても、誰かのフィルターがかかった意思決定に偏ることになります。データや情
報があるのに現場が変わらない――その多くは、データの質よりも対話の質の問題だと、私は
考えています。
同質性・同調性の難しさ:言いにくいことが消えていく
しかし現実には、データにもとづく対話は簡単ではありません。とくに一般的な日本の職場環
境では、「同調性」や「同質性」がデータにもとづく対話の質を下げてしまうことがあります。
これは、建設プロジェクトでも同様だと思います。作業所事務所という狭い環境で仕事をする
場合、その傾向は強くなる可能性もあるかもしれません。
同質性や同調性が悪いと言いたいわけではありません。むしろ集団の一体感や協力関係を生み
やすいという強みも持っています。スポーツの世界で、個の力では劣っているように見えても
チームとしては上回ることがあるのが一つのわかりやすい例だと思います。その一方で、少数
意見や異論、違和感を出しにくくする面があり、対話の質に影響を与えます。
同質性や同調性が強い環境では、経験が豊富な人や声の大きい人の意見が優先され、それ以外
のメンバーは何か気づいたことがあっても「まぁ、いいか」となってしまいます。空気を壊し
たくない、関係を乱したくない、波風を立てたくない。こうした無意識の力が働くと、「なん
でも言える」環境ではなくなり、データは表面的な部分だけが使われることになります。
これは個人の性格の問題ではありません。場の力学、性質の問題であり、どこでも一般的に起
こり得るということです。だからこそ、環境、場の設計がとても重要なのです。
対話が生む継続的改善:リーンコンストラクションの本質
私がArchiFuture Webのコラムの中で述べてきた「リーンコンストラクション」で重視する
継続的改善は、まさにこの「対話」を前提にしています。日々、現場で起きている事実を共有
し、前提を疑い、仮説を立て、試し、学び、次のやり方へ更新していく営みです。
そのサイクルを回すために必要なのが、データと対話です。データは、感覚や印象だけでは見
落とされる変化を可視化し、俯瞰して状況を把握することを助けます。対話は、俯瞰して把握
できた事実を「次の行動」に変換します。どちらが欠けても、改善は続きません。
データの価値を高め、日本の現場の強みをさらに強くする
日本の現場には、空気を読む力、協力し合う力、関係を乱さずに前へ進める力、チームとして
やり切る力があります。これらは大きな財産です。データによる意思決定は、その強みを否定
するものではありません。むしろ、データや情報はその強みをより強くするための道具になり
得ます。
そして、現代の私たちは、BIMモデル、という新たなデータ、情報を手にしています。この新
しいデータを使いながら、「なんでも言える」環境のもとで良い対話をし、現場の強みを活か
しながら、継続的改善を回していく。そのときデータは、現場を縛るためのものではなく、現
場を強くする「エネルギー」になっていくはずです。


























