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BIMが変える建築と暮らしの未来
2026.10.06
パラメトリック・ボイス 安井建築設計事務所 村松弘治
暮らしを支える情報基盤
BIMという言葉を聞くと、「建築の専門家が使うデジタル技術」というイメージを持つ人が多
いかもしれない。確かに、これまでのBIMは、設計者や施工者が建築をつくるための専門的な
ツールとして発展してきた。しかし、BIMにはもっと大きな可能性があるように思う。つまり、
BIMのデータは「専門家だけが使うものではなく、私たちの暮らしやまちをより良くするため
のわかりやすい情報インフラ」にもなり得るということだ。
例えば、建物やまちの情報をデジタルデータとして扱うことができれば、防災や避難計画、バ
リアフリー計画などに活用できる。
「このまちは、どこが歩きにくいのか」「車いすやベビーカーで、どこまで移動できるのか」
といった情報を、専門家だけではなく、そこに暮らす人自身が見ることができれば、まちのつ
くり方も変わってくる。
また、日照時間や樹木による日陰、夏の暑さやヒートアイランドの状況なども可視化でき、
日々の生活に寄り添った情報を提供することもできるだろう。
「環境にやさしい建築」という抽象的な言葉ではなく、「自分たちの暮らしがどう変わるのか」
を具体的に考えることができる。
そしてBIMの価値は、建物が完成した後にも続く。「マスタデータ」(前々回のコラム「BIM
プロセス改革がもたらす建築の価値」参照)を活用して設備や部材の情報を蓄積しておけば、
修繕や更新を計画的に行うことができる。壊れてから直すのではなく、「いつ、どこを、どの
ように直すのか」を先に見据え、無理のない予算計画を組み込むことができるだろう。
BIMは、建物を「つくるためのデータ」から、建物やまちを「使い続けるための情報基盤」へ
と進化する可能性を持っている。
人が減っていく建設産業で、BIMは何ができるのか
BIMを通じて建設産業そのものをどう持続させていくかも、喫緊の課題のひとつである。
人材が減少する中で、ベテランが培ってきた技術や判断、そして経験を次の世代にどう伝える
のか。そして、「若い世代が魅力を感じ、長く働ける環境」をどのようにつくっていくかであ
る。ここで重要になるのが、「人にしかできない仕事に、人の時間を使う」という考え方を促
進することである。
例えば、BIMの活用は、図面間の整合性確認、数量やコストのチェック、設計情報の整理など
のルーチンワークの一部を効率化することができる。さらに、設計要求条件や、それに伴う設
計機能・性能の確認、過去事例との比較、そして、過去の査図や設計チェック、トラブル事例、
チェックリストなどを、AIを活用して整理・連携すれば、「どの段階で」「何を確認し」「ど
の項目が重要なのか」といったプロセスにおけるクリティカルチェックポイントを明確にする
ことができ、かつそれに見合った確認材料を提供することも可能になる。
加えて、大量の情報から頻度の高い、重大な問題を抽出可能にすることで、「若手教育に重要
な項目」を効果的に抽出した教育システムづくりにもつながる。
コンカレント(同時進行/調整)型設計プロセスの有効性
上記のように、「BIM×AI×ベテランの経験・視点×若手による実践」が新しい技術継承のカギ
になるが、実は、これらを実現するにはBIMが本来得意とするコンカレント(同時進行)型の
プロセスが前提になる(イメージ図参照)。
BIMとAIを活用したコンカレント型の設計プロセス【=デジタルツイン型】は、「人が、人に
しかできない仕事に集中できる環境」をつくりだし、そのプロセスから生まれる効率化(作業
量と時間の短縮)により、その時間を若い世代の学びと自己研鑽に充てることが可能になる。
これが建設産業全体のモチベーション向上にもつながる。
BIMは「経営」課題も解決する
BIMは、安定した経営という視点からも重要である。
設計上の不具合は、単なる技術的な問題ではない。手戻りによる労力の削減【効率化/時間短
縮】、工期への影響、追加コスト、そして発注者からの信頼。これらはすべて経営に直結する。
だからこそ、BIMを単なる作図ツールではなく、「設計プロセスそのものを変えるビジネスの
仕組み」として捉える必要がある。
そのポイントは、「BIMによるコミュニケーションの変革」である。設計チームにとどまらず、
プロジェクトに関わる関係者全体の合意形成に積極的に活用し、問題が起きる前に、設計プロ
セスの中で問題を予防し、早期に解決する。それは設計品質を高めるだけではなく、手戻りに
よる労力を減らし、結果として「経営の安定」にもつながる。
BIMの本当の価値は「人を助けること」
BIMを語ると、「3Dで建物をつくる」「図面を効率化する」といった技術的な話になりがちで
ある。しかし、本質的な価値は、「人がより良い判断をするために必要な情報をつなぐこと」
にある。
・建築と構造と設備をつなぐ。
・設計と施工をつなぐ。
・建物とまちをつなぐ。
・建物の現在と未来をつなぐ。
・そして、ベテランの経験と若手の知識をつなぐ。
これから必要なのは、単にBIMを導入することではなく、「プロフェッショナルとして建築の
機能・性能に責任を持てる環境をつくる」ことである。
それを支えるために、
①全ての分野でBIMによる設計を基本にする。
②同様にAIを積極的に活用する。
これらを組み合わせることで、設計の品質を高めながら、人の負担を減らし、技術を次の世代
につなげていく。
BIMは、建築をつくるためだけの技術ではない。人と建築とまちの情報をつなぎ、より良い暮
らしをつくるための社会基盤になりうる。そう考えると、BIMは「専門家のツール」から「私
たちの暮らしを支えるツール」へと、その役割を大きく広げていくように思う。




























