タイルとBIMと情報伝達
2016.07.21
ArchiFuture's Eye 大成建設 猪里孝司
常滑にあるINAX ライブミュージアムに行ってきた。タイルとやきものにまつわる展示や体験
のための施設群で、タイルについて楽しく学ぶことができる。その一つ「世界のタイル博物館」
では紀元前から近世までの世界のタイルが展示され、時代と地域により実にさまざまなタイル
が作られてきたことを知った。中でも印象に残ったのは、17~18世紀のオランダのタイルであ
る。イスラム世界では信仰と深く結びついていたタイルが、高価ではあるが火にも水にも汚れ
にも強く耐久性があるので、市民の生活の場に取り入れられるようになった。図柄は花や動物、
風景などで、今見るとごく普通のものだが、ラクダやライオンなど当時のオランダでは簡単に
はお目にかかれなかったものも描かれている。タイルは異国の情報を伝えるメディアとしての
一面があったということを初めて知った。他にも面白い展示や体験教室がある。中部国際空港
の近くなので、機会があれば訪れて欲しい。
BIMが標榜することの一つに、プロセス間の情報伝達に起因する間違いや手間の削減がある。
従来は図面やリストで伝えていた情報をモデルで伝えることで、情報の重複や不足がなくなり
整合性が確保されるからだ。さまざまな要因により、モデルによる情報伝達が一般化している
とはいえないが、そこかしこで着実に進行している。2014年12月に日本建設業連合会から発
行された「施工BIMのスタイル」ではさまざまな事例がまとめて紹介されているが、それ以降
もArchi Futureをはじめとするイベントや学会、団体、ソフトウェアベンダーの発表会などで
いろいろな事例が発表されている。また発表に至らない取り組みも数多くあるだろう。モデル
による情報伝達が定型化されれば、技術的な受け入れ態勢は整いつつあると信じている。
モデルによる情報伝達が一般化しない理由は、手法が定型化されていないことの他に制度や仕
組みが整っていないことが考えられるが、最たるものは不信感だと思う。それはモデルを直接
見ることができないことに起因するのではないかと思う。図面やリストは、紙に出力されてい
るので手に取って目で確認できる。一方、モデルはコンピュータの中にあるのでモデルそのも
のを直接見ることができない。モデルから図面やリストを生成し、出力することはできるが、
モデルそのものはBIMソフトやビューアを介さないと見ることができない。図面もモデルもコ
ンピュータの中にあるデータなのだが、図面には信が置かれる。そして、モデルを直接見るこ
とができないということが、他人が作ったデータを本当に信用していいのかという疑問を増幅
させる。不信感が募ると、BIMモデルから生成、加筆された図面をもとに、もう一度BIMモデ
ルを入力するという、未来から見るとギャグのようなことが行われるかもしれない。モデルを
もっと簡単に可視化するツールが求められる。VRでモデルに入り込めればもっといい。17~
18世紀にはタイルが情報伝達手法の一つであった。もう21世紀も15年以上経過している。早
くモデルによる情報伝達を一般化させたい。