対話する道具
2016.09.23
パラメトリック・ボイス アンズスタジオ 竹中司/岡部文
岡部 毎日のように何気なく使っているマウス。
実はマウスの歴史って意外にも1960年代までさかのぼることが出来るんだ。
竹中 ダグラス・エンゲルバートがマウスの設計図を描き、特許庁に申請をしたのが
1967年(1970年に取得)。その数年前には、彼のスケッチをもとに開発されたマウ
スが世の中に登場していたという。
岡部 当時は「X-Y位置指示器」と表記され、最初のデモ機は木製の本体と金属製のホイー
ルによって構成されていた。
竹中 そんな彼の発明において注目したいのは、マウスという道具に対する考え方だ。
岡部 彼は、マウスという道具を単なる描画のための補助道具として扱っていたのではな
かった。「直感、試行錯誤、曖昧さ、感覚的なものを扱う道具」*1としてとらえて
いたと語っている。
竹中 「X-Y位置を指示するための」高度な装置をつくることに専念していたのではなく、
イマジネーションを増幅させるための「対話する道具」として考えていたんだね。
岡部 そうした彼の思想は、「人の知性を増大させるための概念的フレームワーク」
(1963年)と題した論文に宣言されている。その一節では、デザインという言葉に
も触れ、人の感覚的な思考をとらえて増幅させる手法論の開発に注力すべきだと指摘
している。
竹中 日常我々が手にするマウスは、コンピュータとの対話の中で、欠かせないものになっ
ているね。それは、創造性を妨げるものではなく、より増幅させる装置して考案され
た証でもある。
岡部 コンピュータの進化にたずさわってきた歴代の開発者たちは、コンピュータという道
具を有機的に捉えていたように感じられた。共に考え、互いに対話する、創造性のパー
トナーとしての姿をそこに見出すことができるのだ。
竹中 人の感覚や曖昧さに宿る「創造性を増幅する道具」を夢見てきたパイオニアたち。
マウスが考案されて半世紀ほどの節目、私たちはそんな彼らの意図に今一度立ち戻り、
コンピュータと対話する方法について再び考えてみてはどうだろうか。
*1 「新・思考のための道具」より