顧客の役に立つBIM
2016.10.04
ArchiFuture's Eye 大成建設 猪里孝司
先日、「施設参謀」の著者で株式会社山下ピー・エム・コンサルタンツ(山下PMC)代表取締
役社長の川原秀仁氏のお話を伺う機会があった。川原氏は、施設計画のプロとして発注者の立
場に立ち、施設についてのさまざまな問題を解決している。川原氏の活動とそのベースとなっ
ている施設産業に対する現状認識や考え方に大いに共感した。特に顧客の立場に立つとは、ど
ういうことかを具体的に示していただいたことが大変参考になった。
例えば、竣工図書類の考え方である。発注する立場からすると竣工図書類は「契約に関わるも
の」「資産管理に関わるもの」「運営に関わるもの」の3つに大別されるが、その区別がされ
ていないために、目的の情報を探すのに苦労している。それを分類して納めるだけで発注者に
とっては有難いという話であった。徹底した顧客目線を感じる話である。また実施設計図書は
施設の予定価格を知り、簿価を形成するために必要な情報である。恥ずかしながら、実施設計
図を簿価と関連付けで考えたことはなかった。
賢明な読者の皆さんはすでにお気づきだと思うが、これらはBIMと非常に関係が強い。竣工図
書類をBIMモデルに置き換えても何の違和感もない。簿価に関していえば、実施設計図書より
もBIMモデルの方がよほど目的にかなっている。計画段階に設計説明書を作り、それを基本設
計、実施設計、施工と継承していくことで発注者の望む施設が出来上がるとともに、発注者は
情報として手に入れることができる。前回のコラムで、BIMモデルは「プレ・デザイン」「ブ
リーフ」を運用段階に伝える器といえると書いたが、同工異曲である。BIMの役割と展開を考
える上で、非常に示唆に富んでいる。
川原氏はもう一つ印象に残る話をしてくれた。イノベーションは決して技術革新ではない。技
術に端を発することがあるかもしれないが、これまで当たり前だと思っていた考え方や仕組み
を見直すことで、これまでにない価値観が生まれ社会や生活に変化が起こり、新しい仕事が生
まれることがイノベーションである。そしてイノベーションをおこすことで日本の施設産業を
先進産業にすることができる、そうしないといけないと話された。元気づけられる話であり、
BIMがその中で大きな役割を担わなければならないと思っている。