国際BIMワークショップという学習を通じて
2016.11.10
パラメトリック・ボイス 芝浦工業大学 志手一哉
建築を学ぶ学生が、海外の大学の学生と共同で設計や都市計画のワークショップを行う国際交
流プログラムは古い歴史があるだけでなく、近年、増加傾向にある。しかし、建築生産を志す
学生が参加できるプログラムは、ほとんど聞いたことがない。つまり、設計・計画系に興味の
ある学生とエンジニア系に興味のある学生の間には、異国の文化に触れる機会の多少に差があ
ると言わざるを得ない。これでは同じ学費を払って学ぶ学生に対して失礼ではないか。そんな
想いから、建築生産系ワークショップの国際交流プログラムを同僚や旧知の教員と企画し、本
年の10月上旬に実施した。
提携先の大学は、マレーシアのトゥンク・アブドゥル・ラーマン大学(UNIVERSITY TUNKU
ABDUL RAHMAN:通称UTAR)である。ここに建築生産と環境を学ぶ学部(Faculty of Engineering and Green Technology)があり、その中のコンストラクションマネジメント
(CM)コースの学生と、芝浦工業大学工学部建築工学科の生産系研究室に所属する学生が、
マレーシアの首都Kuala Lumpurから特急電車で2時間ほど北上したところにあるKamparとい
う田舎町(失礼!)で、12日間のプログラムを実施して交流を深めた。我々が用意したプログ
ラムは、現地の伝統的な高床式住居を実測し、それを木軸模型やBIMで再現するというもので
ある。それのどこが建築生産のワークショップかと言われれば返す言葉もないが、参考になる
事例もなく、手探り状態で計画したので仕方がない。いずれにしても、マレーシアと日本とい
う、異なる文脈の建築生産を学ぶ学生同士が、模型やBIMというモデルを通じて交流を深める
ところに意義があると解釈願いたい。このワークショップには、UTARから19名、本学から
22名、総勢41名の学生が参加し、木軸班とBIM班に分かれて約1週間の共同作業をこなした後、
成果発表が盛会に行われた。学生同士の交流は今もSNSで続いており、それなりに成功したと
言えるだろう。
小職がこのワークショップを実現したいと思った理由は、上述した異文化交流以外にもう1つ
ある。マレーシアでは、CIDB (Construction Industry Development Board Malaysia:建
設業開発庁) がBIM Center などを運営してBIMの普及や技術向上を推進しているが、その速
度は概して遅い。UTARの学生も、何かの授業でBIMの話を聞いたことはあるものの、実際の
BIMソフトウエアやBIMモデルを見たことがないという状況であった。一方、彼らはCMコース
で建設マネジメントを専門に学ぶ学生であり、RIBA(Royal Institute of British Architects:
英国王立建築家協会)の認定プログラムを受講しているなど、BIMの根底にある建築生産情報
の取り回しについてはしっかりとした知識を持っていると思われるし、学生の多くが
QS(Quantity Surveyor:マレーシアでは発注者に雇われる予算マネジメントの専門家)を
目指しているという。このような学生たちに、部分的であるとしてもBIMの体験をしてもらう
ことで、僅かながらでもその可能性を感じ取ってもらいたいと考えた。将来、彼らがCMやQS
の立場でBIMを活用することになれば、アジアにおけるBIMの発展が、より深みのあるものに
なるだろうという、壮大な夢想である。
そのようなわけで、BIM班においては、実測した建築物のBIMモデル化に加え、4Dシミュレー
ションやVR、あるいはViewerへの出力を演習したり、BIMとUniformatやMasterformatとの
関係、すなわちBIMによる積算や見積りの方法を講義したりするプログラムを実施したのであ
る。このプログラムの設計やファシリテーションは、小職の研究室に所属する学生に一任した
が、彼らの若い発想や努力のおかげで、素晴らしい内容になったと思う。睡眠時間を削ってま
で事前準備や現地での段取りに骨を折ってくれた、我が研究室の学生たちに、この場を借りて
感謝の意を述べたい。また、このワークショップを一緒に実現させたUTARの先生方(Dr.Wai,
Dr.Mine, Ms.Tan)にもお礼を申し上げたい。
UTARの学生たちが、どの程度BIMを理解できたかどうかは知る由もないが、彼らが面白がっ
てBIMソフトウエアの操作を学んでいたことや、何ができるかをもっと知りたいという学生が
いたことは事実である。彼らが将来、建設産業で働く時に、BIMに触れたことを少しでも覚え
ていてくれたら良い。このワークショップはこれからも長く続けていくつもりで、毎年プログ
ラムを充実させながら、お互いの学生がBIMをより深く理解したり、異国の建築生産の文化を
理解したりできる場を提供していきたいと考えている。