ロボットとAI
2016.11.24
パラメトリック・ボイス アンズスタジオ 竹中司/岡部文
岡部 今、産業用ロボットの世界では、複数のロボットを用いた分散学習手法に注目が集
まっている。成功と失敗のフィードバック情報を共有し、何らかの技術を学んでゆく
成長型AIシステムだ。
竹中 例えば、グーグル社が開発を進めているバラ積みピッキングシステムがある。
人が目と手を連携させて対象物を上手につかむことができるように、ロボットアーム
も視覚と触覚を使ってモノを的確につかむことが出来るのだという。
岡部 これを可能にしているのが、機械の感覚機能であるセンサ技術の進化と分散学習の技
術だ。人がかける時間よりも早い速度で経験を積み、これを情報化・共有することが
できる。
竹中 ロボットの頭上にカメラを設置し、ロボットの軌道動作と映像データを蓄積する。
そしてこのデータを基に、アームの動作を予測することで学習を繰り返すシステムな
んだ。
岡部 実際は14台のロボットを同時に稼働させ、成功の感覚を共有させている。
最終的には、80万回のピッキング作業を繰り返し行い、短い時間で物を正確につかむ
ロボットが誕生したという。では、この分散学習手法は建築施工においてどのように
生かすことが出来るだろうか。
竹中 注目すべき点は、2つある。
まず1つ目は、ロボットの軌跡制御技術だ。従来のロボットアームは、教示された動
作プログラムに従った動きを繰り返し行ってきた。つまり、あらかじめ決まった行動
を強いられてきたのだ。しかし、本システムは「学ぶ」機能を持っている。
岡部 移動や加工する対象物が変わっても、これに柔軟に対応できる仕組みを構築すること
ができるのだね。多種多様な部材や変化する環境に適応する力が、建築施工の道具と
しての能力を拡長しているのだ。
そしてもう1つ注目したいのが、「経験を共有する」という可能性だ。
竹中 AIシステムは、知識の共有にとどまらず、これまでの人間界では考えられなかった
「経験値の共有化」を実現する。何十万回にも及ぶ豊かな経験を土台に行う機械同士
の密接な対話は、ネットワーク化することによって、人とは比較にならないほどの成
長曲線を描く。そしてたどり着く先には、目的に応じて急速に学び進化する経験深い
職人ロボットが活躍する世界が待っているのだ。