BIMとFacilities Industry(施設産業)という
考え方
2017.01.17
ArchiFuture's Eye 大成建設 猪里孝司
2017年最初のコラムが反省から始まることをお許しいただきたい。前回のコラムで、これま
での怠惰を反省し「建築情報学」の教科書づくりに貢献したいと表明した。それにもかかわら
ず、コラムを書いた直後に開催された日本建築学会の「第39回情報・システム・利用・技術シ
ンポジウム」に一言も触れなかった。シンポジウムでは ”オープン・イノベーション時代の個
人と社会”のもと、「建築情報学セミナー1」「建築情報学セミナー2」と題した2つのパネル
ディスカッションが行われた。建築や情報、イノベーションの論客によるもので、すこぶる面
白く、多くの示唆を得ることができた。もっと多くの人に聞いていただきたいと思ったのだ。
コラムを通じて事前にそれをお知らせする機会があったにも関わらず、それを利用しなかった
間抜けさを反省している。今年の12月には「第40回情報・システム・利用・技術シンポジウ
ム」が開催されると思うので、忘れないで参加して欲しい。
2つのパネルディスカッションで、特に印象に残っている発言を2つ紹介する。一つ目は「建築
情報学セミナー2」での慶應義塾大学の村井純先生の発言で、情報処理学会ではかつてAIや
ネットワークなど情報処理学会において中核とは考えておらず分野を除外してしまったことで、
中核と考えられている分野のレベルが低下したということであった。周縁分野は他の分野と接
することが多く、新しいことに敏感で変化に対してためらいが少なく、進化の可能性が高いと
考えられる。中核と周縁は相対的な関係で、どの位置から眺めるかで変わってくるが、開いて
いることの大切さは変わらない。
もうひとつは「建築情報学セミナー1」での建築家の大江匡氏の発言である。建築家、設計者
は仕事柄、企業の経営層と接することが多く、それぞれの企業の経営課題を知ることも多い。
設計の能力を活かせば、経営課題の解決に一役買うことができるのに、それを実行している建
築家、設計者はほとんどいない、非常にもったいないというものであった。この大江氏の発言
を聞いて”Facilities Industry”という単語が思い浮かんだ。”Facilities Industry”、施設産業と
いう訳が適切かどうかはわからないが、私がこの単語を始めて認識したのはNIST(米国立標
準技術研究所)が2004年に発行した“Cost Analysis of Inadequate Interoperability in the
U.S. Capital Facilities Industry “である。長くBIMに関わる人であれば耳にタコができるほ
ど聞かされた「建物の設計、施工、運用における情報連携の不備によって年間158億ドルもの
無駄が発生し、その3分の2を建物のオーナーが負担している」と指摘した報告書である。建
築の設計や施工を生業としている業界(BIMに関わる人も含めて)の人には「自らはFacilities Industryの一員だ」という認識、自覚がないと、大江氏は指摘しているのだと感じた。
Facilities Industryとは単に施設を作るだけではなく、建物のライフサイクルにわたってきち
んと使い続けられることに関わる産業のことだと思う。Facilities Industryという観点に立つ
と、役割分担や職能の不備が目につく一方、BIMの役割がはっきりしてくる。実際、BIMを含
むICTを積極的に活用している組織では、求める人材や職能に変化が起きているようである。
日本建築学会が2015年から年1回開催している「BIMの日 シンポジウム」では、その一端が
紹介され、それについて議論されてきた。今年も2月21日(金)にBIMの日 2017シンポジウ
ム「BIMによって変わる組織-マネジメント・建築生産-」が開催される。パネルディスカッ
ションでは、パネリストに中田準一氏(元前川國男建築設計事務所)・芦田智之氏(日建設
計)・千田尚一氏(竹中工務店)・安井好広氏(鹿島建設)をお迎えして、設計・施工・PM
など建築生産に関わるさまざまな立場から、BIMによって変わりつつある組織やマネジメント
の方法、建築生産のプロセスについて議論する予定である。ひとりでも多くの方にシンポジウ
ムにご参加いただき、Facilities Industryという考え方も含め、建築と情報について思いを馳
せる機会として欲しい。