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コラム

ポスト・アポカリプスを恐竜博物館で考える

2026.03.12

パラメトリック・ボイス               前田建設工業 綱川隆司

先日お客様を連れて、福井出張に行っておりました。弊社が携わるプロジェクトを複数ご覧に
なっていただくのが目的で、まずは一昨年にオープンした永平寺町の温泉オーベルジュ「歓宿
縁ESHIKOTO」を最初にご案内しました。この施設の中に橋本夕紀夫デザインスタジオさんと
取り組んだ「Bar 刻(とき)」がありまして、こちらはiFデザインアワード2026でGOLD
AWARDを受賞したばかりです。ここでしか飲めない黒龍酒造さんのお酒やカクテルを味わう
ことができます。次にご案内したのが昨年オープンした六呂師高原のオートキャンプ場
「SORA to DAICHI」です。サニタリーやサウナが常設されており、テント不要のインスタン
トハウスも選べますので、野外が苦手な方でも安心して利用できる施設です。そして最後にご
案内したのが「福井県立恐竜博物館」です。

ご案内の理由は「福井県立恐竜博物館」が弊社施工であるからですが、2000年の開業時に絡
んでいませんので、私にとって関連が深いのは弊社施設のICI総合センターで2019年に設置し
たフクイラプトルの骨格標本の製作の方でしょうか。当時の写真は過去のコラムで確認できま
す。まず博物館に出向き骨格標本の3Dスキャンを行い、そのデータを元にロボットで集成材
を切削して全長8mのレプリカを作りました。全体の監修を恐竜博物館にお願いし、竣工時に
は名誉館長に現地の茨城県取手市までお越しいただいて、修正の指示もいただきました。

それからすでに6年以上経過し久しぶりに訪れた恐竜博物館でしたが、2023年のリニューアル
後は初めてだったので純粋に展示を楽しめました。今回のお客様は初めての訪問でしたが、そ
の展示のスケールには驚かれていました。まだBIMなど現場に導入されていない時期に巨大な
タマゴ型のシェル状の展示空間の施工はさぞや大変だったろうと推察します。福井県立恐竜博
物館は世界三大恐竜博物館の一つと称され、一番の見どころは50体ほどある全身骨格展示です
が、私は大きな年表の展示の前で立ち止まります。

それは地球上に恐竜が存在した時代を示すもので、白亜紀の終わりに恐竜は絶滅し、一部の空
を飛ぶものたちの子孫が鳥類であると説明しています。恐竜絶滅の原因についてはほぼ全ての
人がご記憶かと思いますが、最も有力なのは隕石衝突説です。大きな隕石が地球に衝突し大量
の塵が大気中に漂い太陽光を遮ったことで地表が寒冷化し、適応できなかった生物が死に絶え
た、という話ですね。実際にその時代の地層には隕石の衝突によるものと考えられる他の地層
に見られない元素等の痕跡があるそうです。生態系の頂点を極めた生物の大規模絶滅として
もっとも広く知られているものだと思いますが、生物の大量絶滅は既に5回起きていると言わ
れ、オルドビス紀末、デボン紀後期、ペルム紀末、三畳紀末、そして前述の白亜紀末に、気候
変動、火山活動、小惑星衝突など様々な地球規模の環境変動により、生物の勢力図が書き換え
られてきました。

ここからが今回のコラムの本題です。タイトルの「ポスト・アポカリプス」とは直訳する「黙
示録の後」になりますが、文明や人類が衰退した世界を描くSF作品のジャンルを指す言葉です。
地球史上6度目の大量絶滅がどのようなものになるか、いつものSFプロトタイピング的に考え
てみましょう。

冷戦時代に育った私は、第3次世界大戦による世界の終末についてはフィクションで何度も触
れてきました。『風の谷のナウシカ』もそんな世界観だったでしょうか。しかしソ連解体とベ
ルリンの壁が崩壊した後、核兵器を打ち合うような大戦争は一旦リアリティーがなくなり、そ
の後は人間vs人間ではなく人間vs AIの『ターミネーター』や『マトリクス』のような人類
粛清や環境破壊が結果的に大量絶滅を引き起こす『デイ・アフター・トゥモロー』みたいな映
画が増えました。ナウシカも映画になったときは環境の破壊と再生の印象が強いですね。また
病原体に起因する地球規模のパンデミックでは『12モンキーズ』もありましたが、現実の新型
コロナで我々は大きな教訓を得たと言えます。そして相変わらず隕石衝突も可能性は低そうで
すが『アルマゲドン』や『ディープ・インパクト』のような確率もゼロではありません。

さて、5年前ならそこで話を終えるところでしたが、ウクライナ侵攻や直近のイラン情勢を見
るに、再び「ポスト・アポカリプス」が思い起こされるのです。国際法や世界秩序という言葉
がこれほどまでに軽んじられる分断された社会なのかと思うと同時に、環境破壊と食料・資源
不足に解決の目途はなく、AIの台頭は物理的ではなく雇用を奪う形で人を殺すのかもしれませ
ん。

そんな悠久の時の移ろいを感じながら物思いにふける福井県立恐竜博物館でした。

 JR福井駅のコンコースにはICI総合センターに設置していたフクイラプトルの骨格標本のレプリ
 カが移設されています。福井は桜の名所でもあるのでこの春は是非お越しください。

 JR福井駅のコンコースにはICI総合センターに設置していたフクイラプトルの骨格標本のレプリ
 カが移設されています。福井は桜の名所でもあるのでこの春は是非お越しください。

綱川 隆司 氏

前田建設工業 建築事業本部 設計戦略部長