ストック時代に求められるFMにおけるBIMの活用
2017.02.21
パラメトリック・ボイス 芝浦工業大学 志手一哉
分譲集合住宅のストックが増え続ける中で人口減少局面に転換した今、老朽化していく建物に
どう立ち向かうのかを考えることは、それらの供給に関わってきた者たちに課された課題であ
ろう。分譲集合住宅の長期修繕計画が、12年程度の周期を目安に作成されるとすれば、3回目
(築36年)の大規模修繕を終えた後、つまり新築で購入した入居者の多くが日本の平均寿命
に近づいていく4回目(築48年)や5回目(築60年)、さらにその先の状態まで想いを巡らせ
ている計画は、さほど多くないと想像する。中には、4回目や5回目の工事をせずに解体に向か
うとする計画が存在するのかも知れないが、大多数の分譲集合住宅は人間の寿命より長く存在
していくのだろうと思われる。そうであれば、そこに住まう人の移り変わりをどのようにデザ
インできるかが、ストック時代の建築専門家に期待される能力であろうし、BIMもその様な未
来を予想した使われ方を探求すべきである。
ヘルシンキで偶然見かけた集合住宅は、建物の正面にサンルームのような居室ユニットを取り
付けたデザインが目を引いた。帰国後に調べると、2011年に完成した高齢者向けサービスア
パートメントであった*1。設計者の意図を知る由もないが、建築生産の視点で見れば、この
居室ユニットが、プレファブリケーションされたものであり、何層にでも自由に増減可能であ
り、ガラスをパネルに入れ替えるようなカスタマイズが可能であり、建物に対する脱着が可能
であり、ユニットを他の建物に移設することが可能であるように見えた。同時に、建築のオー
プンシステムとはこういう事かと腑に落ちた気がした。法的な問題は横に置いておき、このユ
ニットを建物本体と切り離して中古市場で流通させるには、BIMをベースとした取引のプラッ
トフォームが必要になると思う。
しかしながら、長期的な視点や特殊解を対象にファシリティマネジメント(FM)とBIMの関係
を問うてみても何も始まらない。長くとも、2・3年先にBIMを活用する効果が見えていなけれ
ば、関係者の努力は続かない。そこで維持保全のマネジメントにBIMを利用できないかと考え
る。そもそも、建物の経年劣化と長期修繕計画が合致することなど稀で、数年おきに劣化診断
をして計画を見直すことが大事である。加えて、見直した計画と実施の比較をFCI(Facility
Condition Index)のようなコストベースの指標で定量化すれば、向こう数年の維持保全予算
の計画に役立てることができそうである。この場合、劣化の部分を特定して情報を記録・追記
するので、部位や部品で仮想建物を組み立てるBIMモデルとの相性は良いはずである。加えて、
工事範囲の数量も容易に算出できよう。
脈絡のない3つのストーリーを綴ってみたが、これらは意外と関係している。FMにおけるBIM
は、短期的な効果を目標として導入を進め、不動産マネジメントに対象を拡大し、その結果と
して建物の長寿命化に寄与できるというような、連続性の中で語られるべきではないかと思う。