モスラ?否、テスラ
2017.02.28
ArchiFuture's Eye ARX建築研究所 松家 克
ゴジラでもなくモスラでもない“テスラ”こと、ベンチャー企業のテスラモーターズの思考や動
向が、最近、とても気になっている。現在、世界の自動車産業は、石油などの化石燃料の枯渇
と地球環境対応、生活観や価値観の変化などを基に将来を見据えて、否、不確定要素を含みパ
ラダイムシフトが進んでいる。それと呼応し模索するように電気とガソリンを組み合わせた
HV/PHV(ハイブリット)、水素、燃料電池、電気、AI対応運転、発電/蓄電対応、パーソナル
モビリティなどがかしましく話題になり、世界の車メーカー間で激しく厳しい研究・開発競争
が繰り広げられている。しかしながら、近未来車の選択肢に確固たる道筋が見えてこない。
フェラーリ社がF1撤退に触れたり、電気自動車によるフォーミュラEが開催されたり、トラ
ンプ大統領によるアメリカの混乱なども含め、関連する最先端の技術の展開は、耳障りな軋み
音が出ている感すらある。トヨタとスズキとの提携やホンダと日立・ソフトバンク・グーグル
系、日産とNASAなどの事例や諸外国のメーカーでの提携や協力は、この見えない先への開発
投資と関連技術のこともある、と報道されている。ソフトバンクの孫氏は、自動車はAIの自動
運転によりスパコン並みになると断じている。この環境下、テスラが、電気自動車に特化し独
自路線を突き進み、2016年、EV車を8万3922台生産。前年比64%増と大きく伸び、販売数は、
約7万6230台で記録を更新し、前年比で50.7%増と世界シェアが急速にアップしている。他
の車メーカーに比して、まだまだ小さなベンチャー企業が、今後どう展開し発展していくのか
興味深い。
先日、テスラの青山ショールームを覗いてみた。やや狭いスペースに想像以上に大きく、ガル
ウィングの後部ドアを備えた最新車、テスラ・モデルXが展示されていた。ウィキペディアよ
ると、テスラモーターズは、ガソリン車を超える電動自動車を、と願ったシリコンバレーのエ
ンジニア数名により2003年に設立されている。まだ丸13年を経過したばかりの若きベン
チャー企業である。「持続可能なエネルギーへ、世界の移行を加速する」を目標とし、アメリ
カのシリコンバレーを拠点に、バッテリー式電気自動車と電気自動車関連商品を開発・製造・
販売している企業と紹介されている。企業名は電気技師・物理学者のニコラ・テスラに因むと
いう。そして“Model S”は米モータートレンド誌の2013年カーオブザイヤーに選ばれ、安全性
でも5つ星評価を獲得している。
このテスラは、日本も含む世界の企業と提携し、世界の知恵と参加によって車を創り出してい
る。例えば、ロードスターの車台はノルウェーで、ブレーキ及びエアバッグはドイツで作られ
ている。併せ、ロードスターのデザインコンテストで優勝したロータス・デザイン・スタジオ
によってボディパネルがデザイン・設計。製造は炭素繊維を用いて第三者の業者。このロード
スターは、イギリス・ノーフォークのヘセルで、ロータス・カーズとテスラモーターズ両方の
従業員で最終組立てを行っているという。オランダのティルブルフやカリフォルニア州のラス
ロップなどの地域でも生産拠点を拡大している。多くの日本企業も仲間として参加し、その代
表格がアルミ板成型用の金型技術とバッテリーの革新技術、軸受けのセラミックボールだ。日
経産業新聞によると、テスラ製の車は、シャシーなど全てがアルミ製だという。鋼鉄に比べ、
アルミ板の成型は難易度が高い。前述の革新を遂げたアルミ用金型は、静岡にある富士テクニ
カ宮津の技術で造られている。テスラの幹部メンバーが直々に会社視察し、その技術力を高く
評価し惚れ込んだという。金型の技術者も同社のカルフォルニアの拠点に足繁く通い、テスラ
との情報交換を頻繁に行なっている。一方、2016年12月にパナソニックとテスラは、ニュー
ヨーク州バッファロー工場で太陽電池セルとモジュールの生産を開始することで合意。併せ、
リチウムイオンバッテリーパックのコストを削減するため、テスラと日本のパナソニックを含
む主要な戦略的提携企業は、ネバダ州でギガファクトリーの建設を始めた。電力グリッドの堅
牢性を向上し、企業や生活のエネルギーコストを削減し、非常時のバックアップ電源を提供や
電力貯蔵用バッテリーパックの生産も視野に入れているという。ツバキ・ナカシマのセラミッ
クボールは、軽くて変形しにくく電気を通さない特徴があるという。
テスラは、自動車メーカーではなく、エネルギー・イノベーションに力を注ぐテクノロジー企
業であり、デザイン社だと自らを談じている。
ブラウン管式が液晶テレビに、そして銀塩フィルムのカメラがデジタルカメラに、東芝が、先
を読めずに存亡の危機を向かえたり、日本の先端技術のロケット産業を一部民間に移行させ、
打ち上げ時のコストダウンを図ることを模索しているように、今後、ガソリンエンジン車が電
気車などにとって替わる大きな変化があると予想される。テスラは、先の次世代を見据えた理
念を持つ企業が新しい価値を生み、新産業を育成する好事例ではないだろうか。今後の生活と
の関連で、どのように展開し発展してくのか、興味が尽きない。