アートとコンピュテーション
2017.03.09
パラメトリック・ボイス アンズスタジオ 竹中司/岡部文
岡部 クレーの「造形思考」という本、とても素晴らしかった。彼が描き出す迷いなきフォ
ルムは、丁寧な観察と深い試行錯誤によって支えられている。そんな様が読み手に生
き生きと伝わる一冊である。
竹中 明るく爽やかな色彩と踊るようなラインが躍動的なクレーの作品と共に、幾何学的な
稜線を繰り返し探求した、豊富なスケッチが魅力的だね。
感覚的に感じられる彼の作品の裏に、確かな論理性を見ることができる。
岡部 クレーは、「フォルムング」という、興味深い言葉を残している。
竹中 形を意味するフォルムとは異なった、独自の形のとらえ方だ。
岡部 彼は、フォルムングを以下のように定義している――「構造的リズム論並びに高次の
分節、線的、面的、空間的にフォルムを規定する活動性、物質の適合性と運動能力、
原因的なものを問う、フォルムでなくフォルムング、理念的な根源性」。
竹中 つまり、表層的なフォルム「外形」を生み出すために、潜在的な「内的リズム」に注
目しているんだね。
岡部 そう。例えば、葉を描いた作品「光を受けた葉(1929 / OE4, 水彩)」を生み出す
プロセスでは、自然界に存在する内的リズムに注目し、葉の成長過程や葉脈のリズム
をなんとかして読み取ろうと、多くのスケッチを繰り返している。
竹中 非常に面白い視点だね。アートという感覚性の高いものを支えているのは、描き手の
強い論理性であることに改めて気づかされる。
岡部 そして、表層的なフォルムの裏に隠れたアルゴリズムを操作するという点において、
アートとコンピュテーショナルデザインとの深い共通性を見ることができる。
竹中 どちらも、見えるものを生成するために、見えないものに着目をしているね。
岡部 アートとコンピュテーションという、一見、相対するもの。
それらが目指し、描こうとしているのは、意外にも近い世界なのかもしれない。
竹中 表層的なフォルムの世界を越え、形を生み出すための確かなリズムが奏でる感受性豊
かなフォルムングの世界は、計算技術による解釈としての表現に留まらず、むしろ多
様性に富んだ創造的な世界を柔軟に描き出す手がかりになるにちがいない。