BIMが建設を拓く
2017.06.01
ArchiFuture's Eye 大成建設 猪里孝司
ケン・フォレットの「大聖堂」と続編の「大聖堂 果てしなき世界」をたて続けに読んだ。ケ
ン・フォレットなのにスパイ小説ではなかったので、気にはかけていたが、これまで手に取ら
なかった。「大聖堂」の新潮文庫版が出たのが1991年ということなので、25年かけて宿題を
終わらせたような感じだ。今年9月には続編「A Column of Fire」(英語版)が発行されると
いう。日本語版はあと2年くらい先になるだろうか。待ち遠しい限りだ。宿題を終わらせるの
をもう少し先延ばしした方がよかったかもしれない。ちなみに、児玉清さんは新刊が待ち遠し
くて両書とも原書を読まれたようで、「大聖堂 果てしなき世界」の解説でそのことが面白く
書かれている。
前置きが長くなったがこの小説は、中世イギリスのキングスブリッジという架空の都市を舞台
としている。両編とも主人公の一人が建築職人(石工)で、「大聖堂」では大聖堂を建てるこ
と、「大聖堂 果てしなき世界」では大聖堂に尖塔を増築することや木造の橋を石造にして架
け替えることなど、建設が物語を構成する重要な要素になっている。特に後者では、新しい知
見や技術を背景に画期的な設計、施工を行う若い主人公マーティンが、ギルドの長でもある保
守的で頑迷な自らの親方と対立し、さまざまな苦難に打ち勝ちながら尖塔を造るという夢を実
現していく道のりが語られている。昔からの工法だからという理由だけで、古くからのやり方
を変えようとしない親方と、さまざまな根拠から合理性を示し新しい工法を取り入れようとす
る主人公の闘いは現在に通じる。
舞台は建築家が独立した職能になりつつあった時代である。どちらの主人公も自ら設計し、職
人を率いて工事を指揮し、大聖堂や尖塔を完成させている。今でいう設計施工一貫である。主
人公は優れたデザインセンスと技術力、リーダーシップを備えている。現実からすると正に
スーパーマンのような建設者である。その主人公でさえ、物語の中では敵対する保守派から見
積もりが高すぎるとか、技術的に実現不可能な絵空事だ、経済合理性がないなどと批判されて
いる。現在の建設事業への批判と重なる。物語では、実験や実例で保守派を論破するとともに
人物的にも優れていることを示し、勝利していく。主人公の論証をBIMで代替できないかと思
う。建設事業に対するさまざまな批判の中には、透明性のなさ、複雑な、分かりにくさなどに
起因しているものが多いと思う。BIMが全ての問題を解決してくれるわけではないが、少し透
明にし、少し分かりやすくすることは出来る。そのBIMの姿は、現在、建設事業者としてBIM
に携わっている人たちが考えるものとは違うかもしれない。建設をもっと理解したい、分かり
やすく説明してほしいと望んでいる人たちは沢山いるはずであるし、そうあって欲しいと望む。
そうでないと建設に未来はないだろう。建設を拓くBIMを実現することで、建設の未来も拓け
る。マーティンにBIMがあれば鬼に金棒だと思わせてみたい。