マルチコプターからドローンの展開
2017.07.13
ArchiFuture's Eye ARX建築研究所 松家 克
建築家の八木幸二氏が、凧にカメラを付け、東工大の学生と中国で写真撮影したと10年くら
い前だったか、お聞きしたことがあった。良好な空撮ができ有意義で楽しかったが、スパイ
と間違われないように厳重注意で揚げたという。現在では中国の台頭により、更にスパイに
間違われる危険度は増したが、同様の空中撮影だとマルチコプターやドローンでとなるだろ
う。併せ、身近でのドローンとなると数年前にArchi Futureの全実行委員で、委員の山梨さ
んの日本建築学会賞(作品)受賞のお祝いの贈り物としたことだ。今では型も古く性能も劣る
このドローンは、初期の学習の役目を果たした後にどうなっていることやら。最近、ドロー
ンの日本流技術の展開が、目覚ましいという。少し、探ってみた。
先日、コマツの千葉センターで“スマートコンストラクション建機”の稼働実演を見学する機
会を得た。高く、高く、雲雀のように飛びあがった最新のドローンで、敷地高低や面積など
の現況を精密測量し、3次元データ化。土量等を把握の上、設計3次元データに現場の調査と
解析結果を加え施工計画を確定。GNSS(グローバル衛星測位システム)による重機の位置情
報と確定した設計3次元データで、アーム制御システムを持つセミオート化ICT油圧ショベ
ルを操作し、高精度と効率化の視点で世界初のマシンコントロール作業を実現させている。
少し驚き!!ドローンが、工事現場で最先端を担う好事例である。ICT、スマホ、ICT建機、
クラウド利用などで、世界に一歩先んじた技術といえる。
この他、最近よく見聞きするドローンの活躍は、資源探索、医療支援、消防・防災支援、橋
梁の裏の点検、農業への活用、測量と地図データ作成支援、火山観測、災害監視や状況把握、
防犯、海上・太陽光発電の点検、室内空間の把握と3次元データ化、ニュース・イベント・
スポーツの中継、教育、広報、映画、光るドローン、ドローンレース、範囲限定の空中中継
機能、専用の発着場の整備による離島への宅配と医療、赤外線カメラとAIとでの獣害対応、
目視外の長距離飛行による水力発電所と高圧送電線の保安検査の実証実験、ドローンだけで
の配送でなく車との組み合わせによる事業展開なども何社かで模索しており、知り得るだけ
でも枚挙に暇がない。
ドローンが話題になり始めた初期の頃は、マニアックで趣味的な使われ方の比重が大きかっ
たが、今では多領域での利用が格段に進んでいる。このドローンに繋がるマルチコプターの
歴史は古く、1902年といわれている。現在では、中国製品が多く軍事的な利用も進んでいる
といわれるが、我々が日ごろ見聞きするのは趣味や業務用である。複数のローターを搭載し
た回転翼機のマルチコプターは、1989年にジャイロソーサーが、開発され発売された。これ
を契機に初心者でも容易に飛ばせることが可能となり、普及が始まったという。飛行体に搭
載されたフライトコントローラーで、内蔵のジャイロスコープや加速度センサー、気圧セン
サー、GPSなどで空中姿勢を安定させ、機体の傾きや進行方向を自動制御し自立飛行が可能
なものがドローンと呼ばれている。センサーと制御システムとプログラム、ここが、重要で
あり肝である。今までにない判断能力を持った空中ツールといえる。
今も小笠原諸島の西之島が火山活動を続け成長している。この過程の撮影や測量も無人飛行
機もしくはドローンで進められていると想定できる。併せ、天気予報の精度も上がった。こ
れは、“ひまわり”の性能アップが要因と言われている。高層気象観測の一環としてラジオゾ
ンデ、ロケットゾンデ、ドロップゾンデ等での観測が行われているが、これに加え、各高度
でのドローン測定や観測なども想定されるなど、新たな利用方法が広範にあると考えられる。
建築関連では、最近、中小企業の建設会社向けの3D現場解析システム一式の簡易で廉価なレ
ンタル事業も開始されたという。数十分ほどで構造物や地形図の3Dデータが作成可能だとい
う。当然であるが、BIMやAIと連携した応用例も考えられる。ドローンとの連携については、
ざっと考えただけでも前述の+各種車だけでなく、+ヘリコプター、+船、+自転車、+消
防車、+救急車、+トラクター、+測量機、+複数ドローンなどが想定出来、これからは、
大きな視野での次世代への急展開は、想像に難くない。
今後の課題は、関連法の整備と規制緩和で、どのようなビジネス新モデルが組み立てられ、
どのように発展出来るかだろう。生活環境改善につなげることが出来るのか、豊かな生活に
必要なのか、楽しいのかなどなど、課題は満載。三菱商事と日立製作所が共同出資するベン
チャー企業が、ドローンの実験・試験場として廃校の利用を開始したという。狭い国土や都
市圏でのドローンの進歩と活用はどうなるのか、大変興味深い。敢えて言うなら日本独自の
ユニークな発想と展開を期待したい。