道具へのこだわり
2015.06.16
パラメトリック・ボイス アンズスタジオ 竹中司/岡部文
岡部 179種類。これ、かつて日本の建築技術を支えていた大工道具の数。「削る」道具だ
けで49種類。
これにプラスして、建物の形状に合わせた道具が常に開発されていたのだよ。
竹中 すごい数だね。道具自身の形もとても美しい。
岡部 デジタルの世界ではどうかな。
例えばマウスひとつとっても、買ってきたものをそのまま使う。「操る道具」である
という認識があれば、そこにコダワリがないのは可笑しい。デジタル技術だからとい
って、なんとなく頼りきってしまう傾向があると思う。
竹中 CADソフトだってそうだね。使っていて、なんだかもどかしく感じるのは、
どんな建築も同じアルゴリズムの上で描いているからなんだよね。
筆で描くように、もっと自由にもっと創造的な建築を描きたい、そんな想いがアンズ
スタジオの原点でもある。
岡部 そう。手の仕事への絶対的な敬意が根底にある。
竹中 デジタルの世界でも、道具と繰り返し対話する。
そしてさらにその先にある、先進テクノロジーならではの道具を目指す。
岡部 デジタルもアナログも同じ世界なのよね。
木質建築モジュール(Neuro fabrics)プロジェクトでは、デジタルデータと道具の
関係がとても面白かった(笑)。
竹中 コンピュータで描いた情報を使って、刃物(エンドミル)で木を削る。
最初に削った時は、泣きそうになるほどボロボロに仕上がって、イメージとは大きく
かけ離れていた(泣)。
でも、道具と一緒に寝泊まりしたお陰で、意思疎通出来るようになったよね。
岡部 繰り返し、繰り返し、動作を眺めていると、道具のフィーリングがつかめてくる。
デジタルファブリケーションを支えているのは、こうした感覚なんだ。
竹中 最終的には、木と刃物の関係をつなぐフレンドリーなデジタルコードに翻訳できるよ
うになる。
岡部 ツール・カスタマイゼーションは、わたしたちが建築を創造する上で要となる作業だ
ね。
竹中 建築物ごとにアトムとビットを繋ぐ固有の道具を創り出す、インテグレータとしての
仕事が重要だと考えている。