MIT Center for Civic Mediaを通して考えたこと
2017.11.21
パラメトリック・ボイス 東京大学 木内俊克
We use the term civic media, rather than citizen journalism: civic media is any form
of communication that strengthens the social bonds within a community or creates
a strong sense of civic engagement among its residents. Civic media goes beyond
news gathering and reporting. MIT researchers and students are experimenting
with a variety of new civic media techniques, from technologies for protests and civil
disobedience to phone-texting systems that allow instant, sophisticated votes on
everyday activities. The Center amplifies the development of these technologies for
community empowerment, while also serving to generate curricula and open-source
frameworks for civic action.
MIT Center for Civic Media「about」のページより抜粋
先週、大学の研究活動の一環でボストンとニューヨークに久々に足を運んだ。不勉強で、実
に多数のリサーチトピックがずらっと並ぶMIT Media Labのリサーチグループの中には研究
内容を全くと言ってよいほど把握していないグループがほとんどなのだが、そのひとつに
Civic Media Groupがある。とあるMIT Media Labスタッフの方とカジュアルに話す機会が
あり、実はそのグループとっても面白いんですよという話を伺った。彼らはMIT Center for
Civic Mediaを運営しているグループであり、上述のウェブサイトからの引用のとおり、徹底
的に市民側の目線に立ち、彼らの介入がなければメディアの俎上に上ることのない市民の論
点の発信や、市民同士のコミュニケーションの促進を、SNSを中心としたテクノロジーによ
り実現していく活動を行っている。
といった話自体はどこにでもありそうなものだが、よくよく考えてみると確かにこれが面白
い。当たり前といえば当たり前ながら筆者が興味をいだいたのは、都市に存在する多くのも
のや流通している情報は、受け手にとって実にちょっとした情報の補足によりその意味合い
を大きく変えうるということ、そしてその変化が発生しうる状況にCivic Media Groupは特
化してコミットし、社会に変化を与える原動力としてプロモートしているということだった。
たとえばAction Pathというアプリ開発のプロジェクト。アプリはコミュニティーが懸案事項
として抱えている都市問題に関するアンケートを、その場所に市民が通りがかったときに
プッシュ通知を使って意見を求めるというもの。何もなければ、あぁ不法投棄があるなと思
いながら通りがかるだけの道での経験を、直接的によくないという声をあげる機会に変える。
不法投棄の問題は解決しましたか、していませんかの二択であれば、かなりの確率でNo(し
ていない)を1クリックする労力を惜しまない人も結構いるのではという想像がつく。
あるいはPromise Tracker。政治家が公約した都市整備が実際に実行されたかどうかを、コ
ミュニティーのメンバーが写真に撮るだけでGPS履歴と合わせて情報化し、政府にモニター
結果を打診できるというシステムを持つもののようで、公約実行のモニタリングをコミュニ
ティー全体で実行していけるというアプリだ。実際にアプリをモニタリングに応用した政府
VSコミュニティーの構図以外の事例としても、ブラジルの学校給食がきちんと生徒の健康を
保つようなメニューで供給されているかを学生がモニタリングし、父母側を含むコミュニ
ティーでモニタリングするツールとして使われた事例もあったと聞いた。これらのプロジェ
クトは現実の生活はまさにメディアそのものであり、そこから適切なタイミングで簡易な方
法で情報を吸い出すことができれば、それがとても強力なコミュニケーションツールであり
社会を形づくる力になることをよく示しているように思う。
Goboも面白い。一般にインターネットでのニュース閲覧が進むと、関心領域の狭小化がおこ
り、特定の偏った情報ばかり受容するリスクが増すことが近年指摘されるようになってきて
いるが、Goboはそうした情報の偏重を回避する為に、積極的に自分のニュースフィードにど
の記事が何の理由で含まれ、またどんな記事がフィルターにより除外されているかを定期的
にチェックすることを促すような仕組みをもつとのこと。無意識化で進行する現象の可視化
という点で、上記の二つのプロジェクト以上にクリティカルに日々の情報の授受のシーンに
変化をもたらすツールとして働くことが想像できる。
と徒然にメモを記してみたが、まとまらないものを無理矢理まとめれば、こうした一つひと
つのアプリの働きを、都市の一部として考えてみることがやはり面白いという感覚がある。
Civic Media Groupほどポリティカルなアプローチである必要はないかもしれないが、日々そ
れとなく接している日常に埋め込まれた大量の事物の何に触れ、何を見聞きするかはやはり
蓄積という意味でおそらく誰にとっても都市のイメージを形づくる主要な場であるはずだ。
その1シーン1シーンにアクセスしていくことはやはり都市をデザインすることの本筋であ
るように思える。