経験するロボット
2018.05.24
パラメトリック・ボイス アンズスタジオ 竹中司/岡部文
岡部 先日、Zaha Hadid Architects(ZHA)によって発表された情報によれば、最新作の 現場で、ロボットによるオンサイトコンストラクション(現場施工)を実践するらし
いね。
竹中 Lushan Primary Schoolのプロジェクトだね。ロボットの熱線切断技術を使って、
コンクリート造の複雑なアーチ形状を実現しようとしているようだ。
岡部 施工会社は特定されていないけれど、ZHAとコラボレーションの実績があるOdicoも
候補の1つだろう。Odicoは2012年にデンマークに設立された会社で、コンクリー
ト施工に革命を起こすべく、ロボットを駆使した三次元曲面の生成技術を開発してい
る。
竹中 ここ1年で、ロボットの舞台が、柵に囲まれた実験室から実際の現場へと移ってきて る。つい3年前までは、研究段階にとどまっていたものばかりだったが、今年くらい
から2020年に向けて実践事例が急速に増えてくるだろう。
岡部 建築家たちも、こうした技術が切り開く可能性に目を向けざるをえない時代がやって
くるね。では、実践へと踏み込めるようになった最も大きな要因は何だろうか。
竹中 センサ技術の進化が大きく関係しているだろう。物質をよく観察し、事細やかに分析
する。周囲環境に対する適応力が飛躍的に向上し、コンピュータとロボットをつなぐ
技術が整ってきたのだ。
岡部 なるほど。宙返りロボットで注目を集めるボストン・ダイナミクスのCEOマーク・レ
イバート氏も、刻々と変化する周囲環境にいかに適応できるかが重要で、そのために
は計算による予測と実際の運動をつなげるための技術が進化しなくてはならない、と
指摘しているね。
竹中 たとえば、「まっすぐ切る」をロボットの動作で考えてみよう。
計算世界では単純にA点からB点までの直線を切断できる。しかし、物質の世界では、
刃物の切れ味やマテリアルの特性が悪さをして、実際は曲がって切断されてしまう可
能性もある。
岡部 そうだね。思っているほど、単純ではない。トライアンドエラーを繰り返しながら、
まっすぐ切る動作や素材の特性をよく観察する必要があるね。
竹中 コンピュータから指令を出したからと言って、その通りにはいかないところにロボッ
トの難しさと面白さが同居している。計算世界と物質世界をつなげるためには、ロ
ボットをどう反応させるべきか。計算による精密な解析のみならず、人間の経験や感
覚を埋め込んだ柔軟な仕組みが要になる。
岡部 太古より、人は周りの環境に順応しながら多くを学び、更には「創造性」を発揮する
ことで大きな進化を遂げてきた。ロボットの進化もまた、同様かもしれない。
竹中 ロボットは、周りの環境や様々な物質と対話をはじめることで多くの経験を積み、ま
るで成長する子供のように、知能や技能を身につける。これまでの道具という枠組み
超えて、学び続ける「経験値の蓄積」が新しい時代を牽引するにちがいない。