BIMとSociety5.0
2018.07.13
ArchiFuture's Eye 大成建設 猪里孝司
昨日、出張でスターフライヤーを利用した。機内エンタテイメントに“びっくり!ギガ建造物
#9「大分の巨大ドーム(Dome)」”というプログラムがあった。大分ドーム(設計:黒川紀章)
の建設秘話や開閉屋根はじめとする大規模建築を実現させた技術を紹介する番組だ。
その紹介文の“設計建築を担当したのは、2007年に他界した黒川紀章”という記述に驚いた。
これまで「設計建築」という単語にお目にかかったことがない。ナショナルジオグラフィック
が制作した番組のようなので、英文の解説を翻訳したことでこのような単語が出現したのかも
しれないが、「建築」が社会に浸透していなことを象徴しているようでならない。
先月のコラムでCommon Data Environment(CDE)にふれた。CDEは建築をつくる、もしく
は管理する立場の人たちが必要だと言い出したものだ。私も建築をつくる側の端くれなので、
CDEの必要性に異論はない。効率的な建築の設計や施工、維持管理にはCDEが不可欠である。
それ以上に、社会や市民に対して建築の情報を提供する際に、CDEが威力を発揮すると思って
いる。先日、ある座談会でコラム仲間の山梨さんのお話しを拝聴した。質疑の中で、新国立競
技場のザハ案が話題になった際に、ザハ案のことが市民に正確に伝えられていないのが残念だ
という山梨さんの発言が大変印象に残っている。またICTの活用が、計画案についての情報提
供や意思決定のプロセスにも影響を与えるだろうという発言も示唆に富むものだ。このように
建築と社会をつなぐ回路となることもCDEの役割だと考える。
少し前から「Society 5.0」が話題となることが多い。第5期科学技術基本計画の中で、我が国
が目指すべき未来社会の姿として2016年に内閣府が提唱したものだ。産業だけでなく社会全体
の進むべき方向を示しているという意味では、ドイツの「Industry 4.0」の上を狙ったものだ
ろう。内閣府のホームページには、Society 5.0とは「サイバー空間(仮想空間)とフィジカル
空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立す
る、人間中心の社会(Society)」で「狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、
工業社会(Society 3.0)、情報社会(Society 4.0)に続く、新たな社会を指すもので、第5期
科学技術基本計画において我が国が目指すべき未来社会」と説明されている。「Society 5.0」
の中でBIMモデルに言及されているわけではないが、サイバー空間内で建築や構築物を表すもの
としてはBIMモデルが最も適している。BIMモデルは重要な役割を果たす。地図情報の延長とし
て考えれば理解しやすいだろう。すでに、地図情報の上にさまざまな情報を重ねることで、新た
な価値やサービスが生み出されている。BIMモデルにどのような情報を重ね合わせることで、こ
れまでにない新たな価値やサービスが生まれるのか。つくる側、管理する側だけで考えていても
限界がある。使う側、見ている側がCDEを介してBIMモデルに触れることで、新たな展開がある。「Society 5.0」が、CDEとBIMにより建築が社会に拓かれるきっかけとなることを願っている。
写真は、ダレス国際空港メインターミナル(設計:エーロ・サーリネン)である。長年、訪れた
いと思っていて、つい先日ようやく念願がかなった。1962年竣工なので、私とほぼ同い年であ
る。幾たびかの拡張でメインターミナルの機能も変化しているが、簡潔で躍動感あふれる空間は
まったく損なわれていない。デザインだけでなく建築計画も秀逸であったことがよく分かる。搭
乗口から飛行機へのアクセスを、当時一般的であったバスではなく、モバイル・ラウンジを利用
する計画としたことも大きく寄与していると思う。モバイル・ラウンジを利用する計画の利点を
説明するための動画を、サーリネンの依頼でチャールズ・イームズが制作していたことを初めて
知った。不勉強を恥じている。