ハイブリッドな社会へ向かうために
2018.08.23
パラメトリック・ボイス アンズスタジオ 竹中司/岡部文
岡部 近年のものづくり業界では、技術革新、あるいはイノベーションと歌われる技術が
次々と発表されている。昨年出版された「マッキンゼーが予測する未来」の中では、
こうした状況を「イノベーションが頻発する時代」、と表現した上で、歴史的な技術
ブレークスルーの間隔が短くなってきていることを指摘している。
竹中 その通りだね。コンピュータの情報処理能力の向上に比例するように、様々な分野で
技術革新が続いている。情報技術や、ロボット技術だけではなく、物質自体の構造さ
えも変化させる材料学の分野でも同様だ。
岡部 一方で、こうしたデジタル技術が、建築界をはじめとしたものづくりの世界でいった
い何を変えるのか、と懐疑的な意見もよく聞かれる。とりわけ建築界ではね。技術が
もたらす変化を理解するには、時間を要するわけだけど、ものづくり革命を起こすた
めには、どんな視点が重要になってくるだろうか。
竹中 まず、技術に対する姿勢を変えていかなくてはいけないと思う。新しい技術を、労務
の代替として活用する方法を探るのではない。それでは、技術ありきの話になってし
まうからね。技術を習得する視点から、今までの手の仕事をどのように「拡張」して
ゆくか、を探るべきなのだ。
岡部 なるほど、技術の「置き換え」ではなく、技能の「進化」と捉えるべきなんだね。
竹中 そう。これは、新しい技術を広めようとする者たちにとっても、必要な姿勢だ。とり
わけ建築のものづくりは、新しい技術を手仕事の置き換えとして取り入れることは非
常に難しい業界だ。飛び道具ではなく、手仕事の延長としての目線を持って技術開発
してゆく視点が重要である。
岡部 こうした視点は、我々が開発を担っている建設ロボット事業においても大切にしてい
る考え方だね。
竹中 そうだね。車業界において、ハイブリッド車が、ガソリン車からEV車への歴史的変革
へ大きな布石を打ったように、ロボット社会において、手仕事と機械仕事との協調の
時代が求められている。
岡部 そして、いかなる時代であっても、生活に豊かさを創生する技術を目指すこと、それ
が必要不可欠なのだ。
竹中 人とロボットが互いに競争する未来ではなく、両者が創発しながら、新しい社会を再
構築する。彼らが見つめる先には、人の果てしないイマジネーションが築く、自由で
楽しさが湧き上がる世界が存在しているべきなのだ。