IoTで建築をオモチャにする
2018.09.04
ArchiFuture's Eye 日建設計 山梨知彦
IoTは建築をどう変えていくのだろうか? このところずっと気になっている。
■IoTの決定打が出ていない
いろいろな試みがなされてはいるが、まだ決定打は出ていない。
そもそもIoT自体が、話題が先行するばかりで、「IoTとはこれなんだぞ!」といったピンと来
るものがコンセプトとしても実態としてもまだ登場していない。こんな状況なので、IoTとは
どんなものとして世の中に解説されているかが気になり、PCを叩いてみると、出てくるのはこ
んな解説だ。
「身の回りのあらゆるものがインターネットでつながった、いわばモノのインターネットだ!」
おいおい、違うでしょ(笑)。解説として本来記されるべきは、あらゆるモノがインターネッ
トで相互につながれることの意味や、つながったことでモノや社会が、これまでとはどう変わ
るのか、そして僕ら人間にどのような影響を与えようとしているのかであるはずだ。ところが、
いくらインターネットを探ってみても、切れ味の良い解説は見当たらない。つまり今現在の状
況は、誰もがIoTに期待しているが、誰もIoTが未だ何だかわかっていないってことなんだろう。
■IoTに過度な期待を寄せるワケ
しかし、何でこんなに期待しているんだろう(笑)。僕らはこの二十年ほどの間で、仕事や生
活で使っていたパソコンと携帯電話が、インターネットで相互に接続されることにより、生活
の中での存在感が激変するプロセスを目の当たりに見てきた。スマートフォンは、インター
ネットによって電話というデバイスが相互につながれ、またサーバー上にストックされた膨大
な情報に接続されたことで、全く異なるモノへと生まれ変わった代表的な事例だ。この激変の
過程を見てきた我々現代人には、IoTが唱える「身の回りのあらゆるものがインターネットで
つながった」というコンセプトを聞いただけで、全て物がスマートフォンのように生まれ変わ
り、「何かとんでもないことが世の中に起こるに違いない」と思わざるにいられないのだ。こ
れが、IoTに注目が集まっている最大の理由なんだろう。
■IoTの現状
でも今のところ、凄いことは何も起こっていない(笑)。
たとえば自動車の自動運転がIoTの事例として挙げられていたりもするが、ここでの主役は人
工知能や画像認識で、「モノのインターネット」が主役になっているとは到底思えない。
「いや、Googleホームやアマゾンエコーなどのいわゆるスマートスピーカーによって、エア
コンや照明が言葉でコントロール出来るようになり、IoTは既に家庭に入り込んでるではない
か!」という意見もありそうだ。でも、あれって時代を変えるほど凄いですか?という気がし
てしまう。IoTって、こんなもんじゃないはずだ!
まあ僕に限らず、今多くの人がそんなことを感じているらしく、IoTの決定打を見つけ出そう
と世界中の様々な分野の人たちが躍起になっている。もちろん、建築の領域でも、より建築に
近い部分でのIoT実践に向けて、多くの人たちが知恵を絞っている。だが残念ながら、建築と
IoTが結び付き、建築を大きく変えてしまうような決定打は、未だ登場していない。
■IoTで遊ぼう!
決定打が出ない状況を見ていると、IoTへの期待が大きいだけで、いきなり大ホームランを打
とうとして硬くなっているからなんじゃなかろうか、とも思えてきた。今必要なのは、もっと
リラックスして、IoTを楽しむような柔軟な発想の中で、IoTを泳がせ楽しむことなんじゃなか
ろうか。
楽しむといえば、インターネットが登場し隆盛を極めるまでに起こったことが参考になりそう
にも思える。いったい何が起こったかというと、不謹慎な話ではあるが、軍用技術として開発
されたインターネットは、実はポルノやゲームといった趣味の領域、つまり便利で実用的な使
用法ではなく「遊び」の領域でまずブレークし、その後に実用的な使い方が後追いで生まれて
きた。発展の陰には遊びがあったことを思い出す必要があるんじゃないかと思う。さらに言え
ば、同様なことはマルチメディア誕生時にも起こった。いやさらに遡れば、写真や映画だって
そうだった。新技術は、まず遊びの中で開花し、その後に実用的に洗練をされていくものなの
かもしれない。
ポルノとの結びつきはここではスキップするとして(笑)、建築とIoTを結び付ける試行に今
欠けているのは、遊びや楽しさではなかろうか。たとえ、空調がIoTを介して制御できるよう
にするために、メーカーや専門家は躍起になったとしても、肝心のエンドユーザーには言葉も
なんともないし、だからユーザーはIoTにのめり込めない。従ってフィードバックも得られな
いだろう。しかしこれが省エネを競うゲームになっていて、IoTを介して建築の制御がエンド
ユーザーに開放されたとしたら、マニアックなユーザーは競って建築省エネゲームに参加する
かもしれない。彼女を部屋に招待したい輩は、天候や時間に合わせて刻々と照明や空調、それ
からバックグランドミュージックを調整し、電子レンジに入った料理をタイミング良く調理さ
せるためにIoTのカスタマイズを研究しつくすかもしれない。ついでに彼女のApple Watchの
センサーもハックして彼女の心臓の高まりとのシンクロも考慮に入れるかもしれない(笑)。
IoTを使って建築やモノを、インターネットを介してユーザーがコントロールし、遊べるよう
になれば、桁違いの多くの人々がIoTに参加するようになり、遊びの中からIoTの画期的な使い
方が発掘されそうな気がする。実現すれば、Pokémon GOに比べたって、かなり面白そうなも
のとなりそうだ(笑)。IoTを使って建築で遊べるようになることが、建築のIoTを実現する早
道だろう。
■IoTをもっとオープンに!
二つ目に大事だと思えるのは、IoTをもっとオープンなものにすべきではということだ。
今、多くのIoT関連企業が狙っているのは、技術を裏側に隠した、誰にでも使える平易なイン
ターフェイスを提供し、ユーザーには見えないIoTの環境を構築する、そんなところにありそ
うだ。でも、これからのマスカスタマイゼーションの時代を考えると、隠蔽よりもオープンの
時代なんじゃないか。IoTによる機器の操作や連携方法をユーザーに積極的に公開して、自由
に家電と家電、建築と家電の関係を日曜大工で連結できるような、「オープンなIoT」なので
はなかろうかという気がしている。
例えば、現代人の多くはPC上でいくつかのソフトウエアを使いこなし、スマートフォン上でも
複数のアプリをインスト―ルして連携させ、自分用にカスタマイズしてデバイスを使っている
し、そうした行為が出来るリテラシーも兼ね備えている。電話の時ならこんな面倒な作業はい
らなかったはずだが、今ではみんな文句も言わず、いやむしろ楽しそうにいじっている。元々、
インテリアを凝って家具やカーテンや食器に凝った人々だって、それなりのリテラシーを持つ
こと前提に自らのインテリアをカスタマイズしてきたはずだ。IoTの時代になっても、時代や
IoTをリードするのはこうしたリテラシーの高い人たちなんじゃないかと思っている。
なのに、現状のIoTはリテラシーがない、そもそもIoTで生活空間をカスタマイズして生活の質
を高めようなんて思っていない人をメインターゲットに据えている。それはそれで切り捨てちゃ
いけないだろうが、IoTが人間の生活や建築を変え改善して行くものとなるためには、ハードル
を少し上げ、現代人に新たなリテラシーの獲得を促すものとして設定し直す必要があるのでは
なかろうか? iPhoneだって電話とは異なり使いこなすにはそれなりのリテラシーを必要とした
が、大方の人々はそれを使いこなすリテラシーを身に着け、その結果として変革が起きたので
はあるまいか? IoTは人間がサボって、アホになって楽をするためのものじゃなく、IoTともに
人間のリテラシーのバージョンアップを前提とすべきではなかろうか。
■IoT用ビジュアルプログラミング言語がまず必要
三つ目は、IoTで建築を自在にカスタマイズするには、どんな形であれ、使いやすいプログラ
ミング言語の開発が必要なのでは、ということ。プログラミング言語とはいっても、音楽分野
における打ち込みや建築分野におけるRhino+Grasshopperの敷居の低さを見ていると、ビ
ジュアルプログラミング言語をイメージしている。事実これらの分野では、使いやすいビジュ
アルプログラミング言語が登場したことで、プログラミングの敷居が大きく下がり、これまで
はプログラミングとは無縁だった多くのユーザーを獲得している。さらには、最近では
MicrosoftのPowerAppsなんていうPowerPoint並みに使いやすいアプリケーション開発ツール
も出て、プログラミングの敷居はどんどん低くなっている。ひょっとすると、現在はデバイス
先行で進んでいるIoTであるが、まずは、あらゆるデバイスをインターネット経由でコント
ロールができ、それでいて敷居が低いビジュアルプログラミング言語を先行して開発すること
が必要なのかもしれない。
現在はデバイスや家電メーカーがハードウエア中心に、実用本位で、インターフェイスを隠ぺ
いする方向で進められているIoTであるが、僕は、まずデバイスコントロールのための適切な
プログラム言語の開発と、それのユーザーへのオープン化によるユーザー側のIoTリテラシー
の向上と、それらを通してユーザーがIoTと建築をオモチャ化して徹底的に遊び倒すような流
れをつくることこそが、IoTにおける画期的な発明を促す最大の決め手のように思われる。ま
あ、素人の妄想ではあるが(笑)。