BIMと意図伝達
2018.09.11
ArchiFuture's Eye 大成建設 猪里孝司
前回のコラムでダレス国際空港メインターミナルに触れた。設計を始めたのが1958年、今か
ら60年前である。サーリネンはターミナルの竣工を見ることなく1961年に51歳で亡くなっ
ている。手元にある「a+u 1984年4月臨時増刊号 エーロ・サーリネン」には『民間の空港で
初めからジェット機の発着を予定して設計されたのは、これを嚆矢とする。』とある。前例が
ない中、空港内での人の動きや手荷物の処理、空港の運営だけでなく、管制システムやジェッ
ト機特有の問題、混雑時の状況などさまざまなことを調査したそうだ。搭乗口から飛行機へ
のアクセスに課題があることが分かり、当時ヨーロッパで採用されていたバスによる輸送で
はなく、『従来の空港の形式にとらわれない、新しい方策』として、”モービル・ラウンジ”
による航空機へのアクセスを提案し、連邦航空局に採用された。この計画を、実際のユーザ
となる12の航空会社に売り込むために『親友チャールズ・イームズに頼んだところ、膨大な
データとコンセプトを短編アニメ映画に仕立て上げた』とのことだ。サーリネンの依頼で
チャールズ・イームズがこのよう動画を制作していたことを初めて知った。不勉強を恥じて
いる。ネットで調べたところ、”The Expanding Airport (1958)”という作品だと分かった。YouTubeに上がっているので、是非ご覧いただきたい。サーリネンの言いたいことが分かり
やすく表現されている。
前置きが長くなったが、意図の伝達にBIMが使えるのではないかと考えている。設計者は発注
者の要望を聞き、それを建築というかたちに落とし込み、工事ができるよう設計図書として
施工者に伝える。建築士法では、『「設計図書」とは建築物の建築工事の実施のために必要
な図面(現寸図その他これに類するものを除く。)及び仕様書を、「設計」とはその者の責任
において設計図書を作成することをいう。』と定義している。発注者の要望、発注意図を建築
というかたちにし、設計者の意図を盛り込んだものが設計図書といえる。設計図書の最大の
問題は、専門的な教育を受けた者にしか解読できず、理解できないことである。図面や仕様書
など紙の上で表現するしかなかったので、ある程度仕方がないことであるが、画像や映像、デ
ジタル情報を活用することで、専門的な教育を受けていない多くの人にも分かりやすく意図
を伝えることができるのではないかと思う。イームズの動画についてサーリネンが『施主に対
して明快で正確な説明は、いつの時代でも大切なことだ』と述べているが、相手は発注者だ
けでない。施工者や運営や管理に携わる人、場合によってはその建築の利用者に伝えること
が建築がよりよく使われるために必要だと思う。発注者はどのようなことを期待してこの建
築をつくったかという発注意図、設計者はそれを受け止めた上で何を考え、どのようにかた
ちに落とし込んだかという設計意図、施工者はそれらを実現するためにどのような工夫をし、
実際どのように工事をしたかという施工意図が建築には込められれているのであるが、それ
が表にでることはない。建築がそれらの意図を体現したものであると言えるが、建築がその
価値を向上させるためには、建築そのものだけでなく他の形で分かりやすく表現されてしか
るべきだと思う。BIMだけで意図の伝達が完了するとは思っていない。どのような手法で実
現するかも具体的なアイデアがあるわけではない。意図の伝達にBIMが一役買うことができ
るのではないか、ということを考えていたら2年前に「BIMと建築計画」を書いたことを思い
出した。東北大学の小野田先生の”プレ・デザインの思想”とJFMAの“「ブリーフ」による建築
意図の伝達”を題材に『BIMモデルは単に形状や属性を伝えるだけでなく、計画時の考え、想
いを運用段階に伝える可能性を持っている。BIMがそのような役割を担えるようになった時が
「プレ・デザイン」「ブリーフ」に貢献し、建築をよくする役割を担えるといえる』と書いて
いた。
2年前から何も進歩がないことを露呈してしまったが、少しずつでも進めたいと思う。2年後
はどうなっているだろうか。