建物のデータは、無限の資源になる
〜BIM-FM PLATFORM ①
2018.10.02
パラメトリック・ボイス スターツコーポレーション 関戸博高
10月のArchi Futureで、日建設計の山梨さんと特別セッションをさせてもらうことになった。
題目は
『建物のデータは、無限の資源になる-BIMとAIとEC※と』※EC:E-Commerce
当日は、スターツがBIMをベースに始めているサービス『BIM-FM PLATFORM』で、何をし
ようとしているかを話したい。
また、このArchiFuture Webのコラムを書かせてもらうことになった。書く上での立ち位置
は、自分達の経験を踏まえて経営的な視点から見た「BIM的世界」にしたいと思っている。
先ず、BIMとの出会いからスタートしたい。
何ごとにも出会いがある。誰しも人生の中で、いくつかの決定的な出会いがあり、その後の
人生に深い影響を与える。
スターツとBIMの出会いも、そのようなものだった。そして、危機感と共に始まった。
スターツがBIMを導入したのは、約5年前だ。決して早くはない。
当時、カンボジアのプノンペンにホテルを作ることになり、実施設計を現地の設計事務所に
依頼した。発注する以上は、その設計事務所(本社はホーチミンでアジア各地に支店を持つ)
が、どのような体制で設計をしているのか、実態を見ておこうと訪問した。その時が、私に
とっての「BIM的世界」との最初の遭遇になった。
以前より、BIMがどのようなものかは、一応は知っていた(知っているつもりになっていた)
が、その事務所での使い方を見て、閃くものがあった。正確に言うと、「ドキッ」としたと同
時に、これはまずいと思った。そして帰国後直ぐに、自社の設計部の従来のCADを、全てBIM
に変更した。
その時、5年後の今やれていることを、イメージ出来ていた訳ではない。
私が注目したのは、図面やパースを描く機能が優れていることではなく、BIMが扱うのが、
「情報」だと言う点についてだ。それも(失礼な言い方で申し訳ないが)カンボジアという、
東南アジアの発展途上国の中でも一番後ろを走っていると言われている国で、普通に使われ
ていることに危機感を感じたのだ。
何故か。我々は海外で開発を更に進めようと思っており、それに耐えられる設計力や施工管
理能力を、自ら持つ必要があると思っていた。その矢先に、例えればコード付きの電話しか無
い国から、最新のスマートフォンの国に来た様なショックを受けたのだ。これが世界標準なの
かと。
話は少し脱線するが、当時コンストラクション・マネジメント(CM)についても、目から鱗
の体験をした。カンボジアには、我々の求めるレベルのゼネコンは存在しないが、日系の建設
会社に発注すると想定より30%以上高額になる。
ならばと言うことで、建設会社を現地に作り、直営で施工することにした。しかし、日本で造
れば総事業費100億円はする規模のホテルで、施工のための係員15人から20人近くを、全員
日本から送り込む訳にもいかなかった。
そこで、実施設計を依頼した前述の設計事務所がCMも得意とする会社だったので、そこに不
足分を補ってもらうことにした。
海外には日本の様なゼネコンは存在せず、CM会社がその役割を果たすことが多い。従って、
国際的なレベルのCM会社の良い意味での剛腕さ(当然デジタルに進捗管理をしていることも
含めて)は、日本のCMとは異次元のもので、同じ「CM」と言う言葉を使ってはいけないぐら
いの質的差がある。
その設計事務所は丁度バンコクで、リッツ・カールトンが入る300m超の、当時タイで最高層
となるビルのCMをやっていた。そこを視察し、現場の国際色豊かなスペシャリスト軍団を見
て、これが国際的なCMのスタンダードなのだと、認識を改めさせられた。
教訓:「自ら動く事なくして、価値ある発見はない。」
話をBIMに戻そう。この様な体験から日本のBIMの使い方を見ると、最初から違和感があった。
何がそう感じさせたのか? 組織が縦割りになっており、BIMの本質である「情報」に対する
扱いが狭すぎるのだと、しばらくして分かった。それはその組織の専門性の狭さでもある。深
いけれど狭い。
それは、日本の設計事務所や建設会社に、よくありがちなことだ。
「BIMなんて上手くいかないよ」とベテランがすぐに言う。そして、導入が進まない。
これは、企業組織のガラパコス化の原因の一つではないだろうか。
我々は、その陥穽に陥らないように、注意深く組織的に対応した。これはこれで大変重要な意
味があるので、別稿で触れたい。
いずれにしても、「危機感無くして進歩無し」ということである。
さて、スターツのBIMは導入から3年半後に、サービスのブランドを『BIM-FM PLATFORM』
とし、昨年2月に「建物はすべて、データになる」、5年目の今年9月には「建物のデータは、
無限の資源になる」という、メッセージ広告を日経新聞に出すところまで来た。
BIM–FM PLATFORMが、カバーしようとしているのは、下図で示している領域だ。
本当はここでブランディングの話をしたいところだが、話が長くなるので、次回に回すことに
したい。