知能から頭脳へ
2018.10.09
パラメトリック・ボイス アンズスタジオ 竹中司/岡部文
岡部 インダストリアルデザイナーであるロス・ラブグローブがこんなことを言っていた
――「もしも、あなたが頭の中に、他の人が見ることができないような夢を描くこと
が出来るなら、あなたは何だって出来るのさ(If you can visualize the dreams side
your head, the things that other people can't see, you can do anything.)」と
ね。
竹中 素敵なフレーズだね。建築家をはじめとする設計者、そして生産を担う施工者が、既
存の技術によってクリエイティビティを拘束されてしまうことは、とても残念なこと
だ。とりわけ今の建築界は、既成技術の枠内に留まっているかのように見える。
岡部 一方で、テクノロジーは、ひたすら未来を見つめて、その創造性を大きく進化させて
いる。例えば、GPU(グラフィックス・プロセッシング・ユニット)を手がけるエヌ
ビディア社は、コンピュータの描画処理技術を大きく進歩させてきたが、いまや、そ
の姿にはとどまっていない。彼らは描画技術を活用し、AI コンピューティングを牽引
する企業へと躍進している。
竹中 そう、コンピュータは、単なる計算機の役割から、万能な道具へと進化を遂げている
のだね。そして、その中核を担うCPUやGPUは、計算処理能力を格段に上げ、人間の
頭脳に替わるべく、日々挑戦を続けている。
岡部 以前、コラムで紹介したことのあるロボットハンドの開発者Shadow Robot
Companyも、人工知能の強化学習に足を踏み込んでいる。イーロン・マスクが立ち
上げに協力したことでも知られている研究機関OpenAI(2015年設立)との共同研究に
注目してみたい。
竹中 強化学習を使い、積み木をくるくると動かして遊ぶロボットハンドの手さばきを学ば
せてみた結果、ロボットは人間が考えていた手法とは別の方法を見つけ出したという
のだ。
岡部 つまり、ロボット自らが新しいやり方を発見し、「こんな方法の方が私にはやり易い
けど、どうかしら?」と、我々に問うたのだね。
竹中 そうだね。ロボットハンドの可動アルゴリズムを自らが理解し、与えられた小指の可
動域が他の指よりも広いことを突き止めたロボットは、人間が想像した親指と中指、
あるいは人差し指でモノを動かす方法ではなく、親指と小指で積み木を動かす新しい
やり方を逆に提案してきたのだ。
岡部 これはまだ小さな事例にしかすぎないけれど、ロボットが頭の中に他の人が見ること
ができないような夢を描き、これと人が対話できる時代がやってくるかもしれない。
竹中 こうした事例を目の当たりにすると、コンピュータやロボットという呼び方は、すで
に過去のものなのかもしれないね。人類が発明した計算機やマニュピレータは、考え
て作るという行為を夢見て、パラダイムシフトを起こしている。つまり、ロボット自
らが学び、行動を繰り返すことで進化する、知能を超えた頭脳の世界が広がってきた
のだ。彼らは、蓄えた知能を手に、頭脳をもって物質世界へと一歩を踏み出したので
ある。