技能のデジタライザー
2018.11.22
パラメトリック・ボイス アンズスタジオ 竹中司/岡部文
岡部 今月はじめ、JIMTOF2018(日本国際工作機械見本市)が開催された。
20世紀が作り出した最大の傑作技術である工作機器が一同に集う、日本のものづくり
界では最大のイベントである。
竹中 そうだね。工作機械はどんどん大型化し、大量のツールを搭載しながら、これを高速
に、かつ精度高く加工できるのだから、今日のものづくりの要と言えるだろう。
岡部 しかし一方で、これら工作機械が、生産工程のすべての加工を担っているかというと、
実はそうではない。ものづくりの工程では、まだまだ人の手の力に頼っている作業が
多くあるんだ。
竹中 例えば、加工後のバリ取りや研磨作業などが挙げられるね。切削やせん断加工後のバ
リ(削り残し)やカッターマーク、ダイキャストによる鋳造品など、「ばらつき」や
「ゆがみ」のあるワークの加工作業は、ヤスリやハンドグラインダーを使って、未だ
手作業によって行われている。キツく、 汚く、危険で厳しい作業であると、たびたび
問題視されてきた。
岡部 そんな最先鋭の工作機械ですら不可能な加工を、人の手は難なくこなす。
機械でできる加工とできない加工があるんだ。
竹中 そうだね。ものづくりには、「二つの手」が必要だと考えている。
一つ目は、精度が高く、高速速度で、力強い、精密で剛腕な手。
二つ目は、変化を感じながら容認する、敏感でしなやかな手、である。
岡部 なるほど、機械にできない手の加工、つまり、ばらつきや歪みのあるワーク加工には、
「しなやかな手」が必要不可欠なんだね。
高い技術を持つ職人たちは、この二つの手を熟練し、使い分けているんだ。
竹中 そう、我々はそんな職人の手をロボットで実現したいと考え、JIMTOF2018で次世代
ロボット加工システム「ロボミル」を発表した。目で見て、手で感じて加工する。状
況を細やかに読み取り、柔軟で繊細な加工を導き出す。「しなやかな手」を実現した
ロボットシステムである。
岡部 ロボミルは、これまで人の手に頼ってきた加工工程を機械化し、デジタルデータをフ
ルに活用したデジタル・プロダクションによる次世代工場を目指している。
竹中 1970年代、人の手の代わりを夢みて誕生した産業用ロボットたちは、しなやかな技を
記録するデジタライザーとして、職人の技能を学び(数値化し)、そして進化する。わ
たしたちは、工作機械とロボットという両手を携え、いよいよ次世代ものづくりを始
動するのだ。