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コラム

「BIM的世界」における「人・組織の周辺」
(建物のデータは、無限の資源になる
 ~BIM-FM PLATFORM ③)

2018.12.20

パラメトリック・ボイス         スターツコーポレーション 関戸博高

経営的視点から「BIM的世界」について継続して書いている。
今回は「人・組織の周辺」について書いてみたい。ただ他の企業がどのような組織によって、
BIMを活用しているかはよく分からないため、推測するしかない。多少独断が混じる場合があ
るかもしれないが、ご容赦をお願いしたい。

「BIM的世界」における「人・組織の周辺」の課題については、個人、チーム、企業の3つの
立場から考えるのが良いと思ている。特にBIMの本質はビ データであるからこの課題
は、結局データを作り、加工し、共有することが、個人・チーム・企業の枠を超えて何故ス
ムーズに出来ないのかと問うことでもある。

1.組織と言う前に個人がどうするか
・最近、私がBIMの情報を資源とした情報コンビナートを作ると言うと、どこにそんなにBIM
を使える人がいるのですか、とよく聞かれる。答えは、「どこにでもいます」である。パソコ
ンが扱える人なら誰でもBIMは扱える。スーパーのレジを打っていた人でも「BIM的世界」
を通じて建築に興味がある人なら大丈夫だ。
2次元の図面を描くのは、少し訓練が必要だが、BIMは最初から3次元であり、レゴ ブロック
を扱う様にディスプレイの中に建物を作っていけば良い。扱う上での障壁は圧倒的に低い。
先の質問は、これまで建築教育を受けた人がBIMを扱うというケースが大半だったため、当人
が無意識に参入障壁を作っているに過ぎない。むしろ入力する事に限れば、下手な専門知識は
邪魔になることもある。その知識が情報を扱う「BIM的世界」に適用しやすく整理されていれ
ば良いが、そうでなければ我流の不要なデータの塊になってしまう可能性があるからだ。
この「BIM的世界」への参入障壁と言える建築技術者の思い込みが、BIM情報の作成や加工・
流通に悪影響を及ぼす原因のひとつと思っている。

・次によく言われていることだが建築士という専門知識の上に成り立っている資格としての
職能は、近い将来「BIM的世界」の中では解体又は溶解してしまうだろう。
極端な言い方になるかも知れないが、設計における60〜70%以上の作業が、BIMのデータを
使ってオートマチクになされるようになる代わりに、今までになかった提案が、BIMデータ
を使ってなされるようになる。
また一方で表現上の創造的な分野や、社会的・環境的課題への優れた解が必要とされる場合に
おいては、優秀な建築家がBIMの表現能力を駆使して合意形成を高いレベルで行うことで、そ
れ故に一層必要とされるようになる。
これはそんなに遠い将来の話ではなく、既に我々のBIM-FM PLATFORMでも具体的に芽が出
始めていることなのだ。
このような状況下において、これから個人として優れた建築技術者・表現者になろうとする若
者は、自分の能力の可能性をどちらに向けて、戦略的に育てていかなければならないか、自ず
と理解できるはずだ。

2.組織と言う前にチームが核
・BIMのデータ入力は、チームで行うことが多い。通信技術の発達により、チームだからと
言って、メンバーが日常的にそばにいる必要は無い。実際スターツではカンボジアと沖縄の
入力センターとをTV回線でつないで会話しながら同時並行して入力作業をしている。これ
により能力に応じて仕事の分担できる幅が広がっている。

 スターツカンボジアのBIMチーム

 スターツカンボジアのBIMチーム


・チームで仕事をするには、データを扱う上での色々なルールが必要だ。
例えば、ある仕事をする上でのデータの濃さ(LOD/Level of Detail)をどのように管理する
かは、チームとして重要な問題だ。それにより作業効率は全く違ってくるし、無駄なデータを
作らないで済む。
もちろん、ルールはチーム間でも必要になるし、ファイル形式などのレベルは、組織全体で決
めなければならない。そういう場合でも、更にそれを革新していく力の核は、チームが日々
行っている仕事の中にあると思っている。

3.組織と言う前に企業の「ビジョン−戦略−戦術」
・この文章を読んでくれている方が所属する組織には、将来BIMを本格的に導入し、組織的に
その部門を運営するタイミングが必ず訪れるだろう。しかし、現場の技術者に任せておくと、
何人集めて、ソフトウェアをどこの製品にするか、という技術的な話が先行してしまうことが
多いのではないか。
しかし、チョット待って。経営的視点からは、その企業の「ビジョン−戦略−戦術」をどうし
ようとしているかが大切なのだ。この方程式は定番であるがこれが出来そうで出来ていない。
そもそもそのレベルでしっかりした構想を持って取り組んでいる組織の存在を聞いたことがほ
とんどない。BIMをビ データの集積と考えず、3D製図の道具としか考えていない所が、
ほとんどだと思われる。

・「ビジョン−戦略−戦術」といった時に、忘れていけないのは、個人の活性化の問題だ。
「BIM的世界」を構想する場合は、単なる入力作業部隊を作るだけでは不十分だ。未だこの世
界は、歴史もなくこのやり方が正しいというものがない。常に自らにとって、より良いやり方
を開発し続ける必要がある。従って、この組織は研究開発能力を内部で育成することが非常に
大切になる。そして更に、そのBIMデータの使い方によっては、他部門の業務フローにも影響
を及ぼし、ひいては他社にまで影響を及ぼす可能性がある。
ここで最も必要となるのが、その組織に所属する個人のやり甲斐に基づく開発力であり、そこ
まで織り込んだ「ビジョン−戦略−戦術」である。
さて、どれだけの組織がこのようなことに対し、意識的に「個人−チーム−組織」を作り上げ
ているだろうか。

(つづく)

関戸 博高 氏

Unique Works     代表取締役社長