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コラム

「BIM的世界」における「人・組織の周辺」その2
(建物のデータは、無限の資源になる
 ~BIM-FM PLATFORM ④)

2019.02.12

パラメトリック・ボイス         スターツコーポレーション 関戸博高

経営的視点から「BIM的世界」について継続して書いている。

ご存知の通り、「BIM的世界」は広大で、まだ開発しなければならないことが山ほどある。
従って一企業だけで行える範囲は知れたもので、多くの優れた個人や組織が協力して、国際的
かつ戦略的にこの世界を構築し続ける必要がある。

我々のBIM-FM PLATFORMはこの「BIM的世界」において、そのビジン「情報コンビナー
トの構築」を具体的に展開できる先進的で寛容なプラットホームとなることを目指している。
特にそれは仮想世界の仕組みとしてだけでなく、生の現実の人や組織を育成する思想も包含し
た仕組みでありたいと思っている。
今、我々が沖縄やカンボジアのプノンペンにBIM入力センターを置いているのは、単に人件費
が安いからだけではない。海や国境や言葉の問題を、楽々と超えていくことができる人材や組
織、それらを育てる仕組みを東京との関係の中で作りたかったからだ。
既に彼の地で合計20人以上のメンバーが、BIMと向き合って仕事をしている。更にメンバーを
増やすことになると思うし、近い将来インドのどこかにも拠点を置きたい。このようにして世
界で5〜6カ所、時差5時間前後で配置していくことで、24時間切れ目なくデータを作り続ける
体制ができる。BIMの情報をビッグデータと考えていることの論理的な帰結だ。
大法螺吹きと思われるかも知れないが、世界を舞台に「BIM的世界」を構築するには、普段か
らこのぐらいのスケール感でものを考えることが必須だと思う。


さて、前号において「BIM的世界」における「人・組織の周辺」と題して、個人、チーム、企
業の課題を述べた。そして、最後に「ここで最も必要となるのが、その組織に所属する個人の
やり甲斐に基づく開発力であり、そこまで織り込んだ『ビジョン−戦略−戦術』である」と記
した。

今号はその続きである。

4.プロジェクトリーダーの役割
チームが優れた開発力を持つには、構成メンバーの個人がやり甲斐を持って仕事に臨める環境
を作りだすことだ。
個人が活性化するとは、①ビジョンに沿ってやりたいことができ、②成果が出て内外から評価
され、③その過程で成長していることが自己認識でき、④それによって生み出される心の積極
性が維持できている状態だ。
リーダーは自らのチームがそのような環境になるよう努力する必要がある。
結局はリーダーなのだ。かねがね、「BIM的世界」以外においても、新しいことを開発するた
めの全ての組織的試みの工夫は、最終的にはプロジェクトリーダー論に行き着かざるを得ない
と思ってきた。
何の開発が成功するかはてみなければ分からない。濃い霧の中を進んで行くのと同じだ。
リーダーの役割は、時に垣間見える少しの手掛かりを参考にしながら、進む方向がビジョンに
照らして正しいか否かを判断し、進むべき方向を指し示すことだ。
メンバーはリーダーの判断を信じ、自分の役割(開発)に全力を尽くして実行するだけだ。

ここで念のため組織におけるリーダーシップの発揮に、ビジョンが重要であることを強調して
おきたい。なぜなら上記のような開発型の組織のリーダーとメンバーとの信頼関係は、ビジョ
ンによって繋がることなしには、継続的な成果を生み出せないと思うからだ。

5.「蜘蛛の巣」型組織論:開発型組織のイメージ
色々な組織論が語られているが、実務者は具体的な環境の中で、その開発に最も適切な組織形
態を作るしかない。
では多くのことを開発しなければならないBIM関連組織にとって、どのような組織形態が良い
のだろうか。万能の組織論はあり得ないので、ここでは我々が実際に試行錯誤しつつたどり着
いた現場を、「蜘蛛の巣」を例に使いながら説明したい。


・「戦域」と「ビジョン」の確定
BIMのデータを駆使して、どの分野で何を実現するかは、ビジョンと戦略を決めることと同じ
だ。その為には先ず「戦域」を確定しなければならない。無限定な領域で何かをしようとし
ても、そもそも戦略が成立しないからだ。
蜘蛛は人間のような意思を持たないので、「ビジョン」を持つとは言いにくいが、「生き残る
ために獲物を捕獲する」という「ビジョンもどき」はある。その「もどき」に導かれて巣(戦
略=ある領域を包括的にマネジメントする計画)を作る。
蜘蛛は一本の糸を風に乗せて反対側の枝に届ける。これによって枝の間で構成される「戦域」
が確定され、どのような環境の中でかつそこに生息するいかなる獲物を捕まえるかという大
戦略が決まる。


・「戦略」と「戦術」
次に図にあるように、その「戦域」の中に「戦略」と言える放射状の糸を張り(成果を出す為
になすべきことを示し)、大戦略の具体化を図る。その糸を足掛かりに渦巻き状に糊の付いた
糸を張り(戦術)、獲物を捕らえる(成果に向けて行動する)。

ここからが一番言いたいことであるが、私が何故「蜘蛛の巣」をアナロジーとして説明に使う
かというと、渦巻き状の糸は放射状の糸によって、それぞれに独立して支えられており、例え
獲物によって一部の糸が切られても(不具合が生じても)、全体戦略には影響しにくい構造と
なっていることに注目しているからだ。

視界不良の中を進まざるを得ない新規開発は、既に述べたように上手くいかないことが多々あ
る。組織づくりはそのようなことに対応できる弾力的な構造にしておく必要がある。つまり、
全体の開発作業は戦略の実現の為に機能し、個々の異変に対して個別に対応でき、また同時並
行して複数の開発業務を進められる組織だ。
このような組織論は結果の後付けになりがちで、他の組織が類似の組織形態をとることが難し
いことが多いかも知れない。だが、それでも少しでも参考になれば良いというつもりで書いて
いる。
無自覚な組織よりは、自分たちの組織形態を自覚的に活用するチームの方が、優れた結果を出
しやすいと経験上思っているからだ。自らの組織形態への理解は、担っているミッションをい
かに達成するかを考える上で、思考プロセスに柔軟性を持たすことができ、これがリーダーと
メンバー間での信頼感との複合的な相互作用による好循環を生み出す。

ここで、我々の組織の具体的記述をしたいところだが、別稿としたい。

関戸 博高 氏

Unique Works     代表取締役社長