index architecture / 建築知
2019.02.19
パラメトリック・ボイス 木内建築計画事務所 木内俊克
先月1月24日、渋谷キャストスペースにて「index architecture / 建築知」発表シンポジウム
が開催された。本シンポジウムは、株式会社新建築社の新しい試みとして、「建築プロジェク
トにまつわる情報をどのようにストックし、活用していくかを建築業界全体の課題ととらえ、
そこに今日的なデジタル技術を適切に用いることで、人の知識とは異なる新たな解釈を可能と
し、クリエイティブな作業との連動をより加速させる」*ことを目指した、「機械学習や深層
学習など人工知能を用いた建築情報の利活用の促進」*を行う研究プラットフォームのローン
チイベントという位置づけのものであった。同プロジェクトには研究アドバイザーとして、テ
クニカルディレクションを担当する日建設計Digital Design Lab、プロジェクトマネージメン
トを担当する砂山太一氏が加わっており、そして筆者も、プロジェクトディレクション担当と
いう形で参画させていただく好機をいただいた。会場には大手企業から個人の建築家、アカデ
ミーで強い影響力を持たれている研究者の方々まで駆け付け、大変な熱気に包まれた。以下、
index architecture / 建築知の目的意識、当日のシンポジウムの様子について備忘録までに記
しておく。研究アドバイザーとして関わる立場から同プロジェクトのもつ潜在的な可能性を
一人でも多くの方と共有したく、今後も注目していっていただきたい。
拡張的な研究を取り扱っていくことを想定しつつも、プロジェクトの現在の軸としては、これ
まで「雑誌“新建築”に掲載された1万件以上の建築プロジェクト記事を題材」*に「これらの過
去データのデータベースの構築」*を中核にすえ、その利活用可能性を模索しながら、「歴史
的に蓄積され今も更新され続け、暗黙知として蓄積されている建築的知見を発掘し、形式知と
して社会に共有できるしくみ」*を実現することが目下の目標といえるだろう。
当日のシンポジウムでは、医療ITでの人工知能活用で先端的な実績を持たれている株式会社
MICINの巣籠悠輔氏、また印刷分野での人工知能活用で実践的な知見を積み上げてこられてい
る大日本印刷の青木修氏を迎え、また日建DDLからは山梨知彦氏が登壇し、業界内外から見た
建築分野における人工知能活用の可能性について多角的な議論が展開された。
ディスカッション部分で口火を切ったのは山梨氏だ。実は山梨氏がArchiFuture Webに寄稿さ
れていた1月22日の記事がかなり氏の関心をよくまとめているもので、シンポジウムで語られ
ていた内容も重なる部分が多かったのだが、あらためて言いえて妙であったのは、人工知能の
導入は氏が指摘する「言葉が生み出す三次元的な構造」の読み取りを専門的な研究者の外側に
開くだろうという点だろうか。建築における知は、一つのプロジェクトでも容易に膨大な量に
達するテキスト情報や数字、そして画像情報を、その場に並べて目に見える関係だけでなく、
専門的な研究者や実務者が地道な整理と分析の果てに得られる、各情報媒体の間にある立体的
な情報の構造を読み取れる能力そのものと言えるだろうが、人工知能の導入は、そうした立体
的な情報把握をより飛躍的な次元にまで拡張してくれるだろうという指摘だ。
大日本印刷の青木氏がこれに続き、彼らが印刷分野というあらゆる情報の交差点にいる強みか
ら取り組んでいる、多業種多分野のそれぞれに特化したシソーラスづくりでの試みが、まさに
山梨氏が指摘する「言葉が生み出す三次元的な構造」の読み取りと重なっていることを強調す
る。面白いのは、そこで読み込まれ、シソーラスとして形式知化される対象となるところの知
の体系は、やはり構造化される段階ではそれぞれの業種や分野に特化した、その業種・分野だ
からこそ暗黙知として共有されている構造を丁寧に取り扱い構築される必要があるというとこ
ろだろうか。ただしそこで構築された知は、ふたたびネット上で随時更新されている既存の
汎用的な知の体系と紐づけられることで、より大きな知の体系のニュアンスをも組み込んだシ
ソーラスとしてふたたび拡張される。建築が固有のターミノロジーを使いながらも、取り扱う
問題が常に建築業界内だけでは完結しきれない社会全般とのつながりにおいて定義される必要
があるように、固有性と拡張性をこうして同時につくっていくことが肝要であるという視点が
指摘されたと言えるだろうか。
さらに巣籠氏は、青木氏の指摘を受け、業界に固有な立体的な知を組み立てていく上でもっと
も重要なのは、その要件定義ともいえるだろうという指摘を付け加えた。人工知能技術の飛躍
がもたらした可能性を生かすも殺すも、どんな目的意識を設定するか次第だというのはまった
くそのとおりだろう。そこでこうした情報技術活用のリサーチプロジェクトを完全に外部化し
てしまうのではなく、建築業界内部にR&D機能を設け、建築的視点からその活用可能性を掘り
下げていくことの価値が明確に浮上する。さらに巣籠氏は、何よりデータそのものの重要性に
ついて付け加える。つまり技術は存在しても、その技術を行使して学習を進めていく為には、
その学習の素材が必要であり、人工知能に学びを与える為のどんなささいな情報でも、それを
蓄積し、利用可能なかたちで共有を図っていくことは、まさに現場にいて日々の業務を進めて
いる建築内部の人材にしか実現できないということが決定的に重要だという指摘だ。
index architecture / 建築知は、では私たち建築業界が生産しつづけている大量の情報をどう
束ね、どう今後様々な飛躍が期待されている人工知能関連技術への活用可能性を最大限確保し
ていくのかに道筋をつけていくことが重要な取り組みとなっていくだろうと考えられる。そし
て何より、そこで得られるメリットや知見が広く業界において認知され、水平方向でネット
ワークしながら進めていくべき事案については積極的な情報交換の場としても同プロジェクト
が位置づけられれば、今後大きな展開につながっていくのではないか。index architecture /
建築知に、引き続き注目していっていただきたい。
* 同引用はすべてindex architecture / 建築知ウェブサイトより転載。