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コラム

BIMを施工へ

2015.08.04

パラメトリック・ボイス               芝浦工業大学 志手一哉

昨年、福島県の湯川村に建設されたCLT集合住宅の建設工事に関わらせていただく機会に恵ま
れた*1。CLTとはCross Laminated Timberの略で直交集成材とも言う。イギリスではCLTを
利用した9階建ての建物が建設されている。CLTを用いた構法の特徴は、躯体工事を短工期で
できることにある。私の研究室は、湯川村のCLT集合住宅プロジェクトの工数調査に携わらせ
ていただいた。

湯川村CLT集合住宅は、2スパン2階建てで4世帯の公営賃貸住宅を2棟建設する計画であった。
研究室の学生は先ず、躯体のBIMモデルを作成し、パネルごとの重量表を出力し、移動式クレー
ンの配置位置をBIMソフトウエアで検討し、パネルの設置順序を4Dシミュレーションで可視化
した。これらの情報はCLT集合住宅を建設する地元の建設会社に提供したり、4Dシミュレーショ
ンを職人さんとの建方事前打合せに利用したりした。
着工した後、その学生は、CLTの搬入・地組み・建方・本締めまでの工数を、現場に付きっき
りで調査した。現在、調査した工数データを5D-BIMソフトウエアに入力し、湯川村CLT集合
住宅の施工記録をBIMで残すべく奮闘している。これが上手くできあがれば、似たプロジェク
トが新たに企画された時に、工期とコストを簡単に算出できると考えている。

このように書くと、全てが上手くいったように聞こえるが、それがそうともいかず、いくつか
の課題を認識した。
第1に、4Dシミュレーションでパネルの設置順序を職人さん達に説明したときに、「2次元の
施工計画図で見ていても設置順序が良く分からなかったが、4Dシミュレーションだと直ぐに理
解できる」と評判であった。しかし、そこはさすがに職人さんで、一度シミュレーションを見
るだけで、後は図面で打合せが進んでいく。しかし、せっかく手間を掛けて作ったBIMモデル
なのに、1回きりの活用ではあまりにももったいない。
第2に、この取り組みではCLTパネルの重量や設置順序を可視化するためにBIMモデルの作成を
したわけだが、「CLTパネルの集合が壁であり、床である」という入力に案外手間取った。BIM
モデルを施工計画に活用するためには、部位ではなく、部品のオブジェクトの組み合わせで建
物の構造を記述・表現する考え方がどうしても必要である。

生産設計におけるBIMモデルの活用は、多くの事例やその効果が紹介され、普及の道筋が見え
てきたように思える。その先に続く、加工・物流・取付け・精算・支払いなど、施工のBIMに
は、試行錯誤や研究の楽しみが、まだまだ多く残されている。


*1 産学連携によるCLT推進プロジェクト

志手 一哉 氏

芝浦工業大学 建築学部  建築学科 教授