Magazine(マガジン)

コラム

モノとモノの対話

2015.08.20

パラメトリック・ボイス           アンズスタジオ 竹中司/岡部文

岡部  Self Organizing Factories(自己組織型ファクトリー)。
    ドイツ最大手の製造会社シーメンスでは、次世代型工場をそう呼んでいる。
    機械自らがコミュニティを組織し、生産ラインを自動的に調整するスマート工場だ。
 
竹中  自己組織という言葉は、先進建築学において頻繁に耳にするキーワードだけれど、
    生産プロセスを形容している点が、とても興味深い。
 
岡部  自己組織性とは、簡単なルールから自律的に「秩序を持つ構造」を作り出す現象のこ
    と。枝分かれを繰り返して全体が生成される、樹木の成長の仕組みなどが良く挙げら
    れる例だね。
 
竹中  単純なルールを繰り返すことによって、環境に呼応した多様な複雑さを生み出す手法
    として建築分野でも注目され始めている。
 
岡部  要素と要素の関係性をルール化し、それらの集合体として形を扱うこの概念は、従来
    の建築設計の手法とは全く異なる視点だけれど、何だかとても建築らしく感じる。
 
竹中  そんな概念を、製造業に応用しようというのだから驚きだ。
                  
岡部  そして、この自己組織型工場の背景となっている代表的な流れが、第4次産業革命と
    称されるインダストリー4.0である。ドイツ政府が推進するこの活動は、機械化(1次)、
    電力化(2次)、自動化(3次)に続く、ネットワーク化(4次)による新しい生産技
    術の革命を目指している。
 
竹中  ネットワーク化を支えているのは、M2M(Machine to Machine)やIoT(Internet
    of Things)という考え方。人と人をつないでいたインターネット技術を、機械と機械、
    さらにはモノとモノをつなぐ技術へ進化させようというのだ。
    ネットワークの力を用いて、様々な機械や材料が相互に対話をしながら生産プロセス
    を組み立ててゆく。多様な製品が次々と生産されるダイナミックな工場の姿が思い浮
    かぶね。
 
岡部  自己組織型工場とは、人類が自然界の生成原理に一歩近づいた、とても有機的でイン
    タラクティブなテクノロジーの革命だと言える。
 
竹中  規格化を促進した20世紀の生産技術は、再び、自由を求めて進化を始めている。
    多様な情報を扱いながら、それらを相互に関係づける。そんなデジタルの力は、建築
    家が建築家らしくあるための時代へと導いてくれるに違いない。

 KUKA社製 ロボットチームの協同作業の様子

 KUKA社製 ロボットチームの協同作業の様子

竹中 司 氏/岡部 文 氏

アンズスタジオ /アットロボティクス 代表取締役 / 取締役