BIM・コンピュテーショナルから考える
データに強い組織
2019.06.04
パラメトリック・ボイス ジオメトリデザインエンジニア 石津優子
組織の大きさに関わらず、個人も含めてコンピュテーショナルに強いと思う組織や個人にはあ
る特徴があります。まずコンピュテーショナル界隈はどのような人たちの集まりでしょうか。
プログラミングを仕事で書いているというとコンピュータサイエンス出身のソフトウェアエン
ジニアと思われることが多いですが、AEC(建築、エンジニアリング、建設)分野でプログラ
ムを書いている人たちのバックグランドはコンピュータサイエンスではないことも珍しくあり
ません。AEC分野がバックグラウンドで業務を経験した人が、自らの業務をデータを活用して
ワークフローを改善し、効率化を図るために最近プログラミングを学んだという人も多くいま
す。
データを扱うコンピュテーショナルの分野は説明する必要もないほど、日々変化します。学問
でやったことがある人にとってはもちろん有利だと思いますが、それ以上に今、現在、週の何
時間をプログラムに費やすことができているのかという現在のトレーニング具合のほうがより
重要な指標になります。スポーツとプログラミングはよく似ていると思うのですが、マラソン
選手になるのは難しくてもトレーニングを重ねれば一般の人もフルマラソンを走ることができ
るのと同じで、世界を変えるほどのプログラミング言語をつくることは難しくてもプログラミ
ングを書いて業務に活用することはトレーニング次第で誰でも可能です。もちろん、個人差は
ありますがいかに日常にその時間を多くとれるかという方が個人の能力差より重要です。プロ
グラミングのトレーニングとしては、勉強会へ参加したり参考書で練習したりといった動的な
インプット、既にあるコードの多読などの静的なインプット、そして自分で考えて書いてみる
アウトプット、それともう一つ、他者にコードレビューしてもらう「インタラクション」の
3つが揃うと劇的に成長します。
国内の建設業でGitHubのようなウェブサービスを組織的に使っているところはまだ少ないか
もしれませんが、組織的に開発を行う上での導入メリットとして、レビューをする文化が生ま
れることにあります。GitHubとは、Gitを利用したバージョン管理のウェブサービスですが、
そのような環境下でコラボレーティブコーディングをしていくことで、誰がいつどれだけ開発
に貢献しているか個人単位でデータ化され、組織全体開発チームとして常に活動状況が可視化
されます。そのログが残ることでコードに対する会話がすべてオープンになります。開発チー
ムのリーダーは、オープンになった作業履歴を見ながら、業務の調整や個人の能力評価および
成長度を客観的かつ公平に判断することができます。また常にレビューをする人がコードを通
して何をしているか理解しているため、開発進捗報告のための準備時間の大幅な削減が実現で
きます。そのようなオープンな環境下だからこそ、作業の場所はどこでもいつでもよいという
ワークスタイルが確立されます。ある意味で管理が厳しいとも言えます。何時に誰が何をした
かというのがすべて記録されてそれが可視化されるため、コードベースで厳しさの中での公平
性が保たれます。可視化される努力とパフォーマンスの中で、いかにチーム全体として成長し
ながら開発を進めるのか。学ぶスピードをどれだけ早くしていけるか、ということが一番のス
キルであり、「今」何ができるかという速度よりも「加速度」が重要視され、チームとしてど
のように成長文化を作り上げるか、それこそがデータに強い組織の根幹になるのではないで
しょうか。