ゲーリーはこう行動した。僕らは何ができるだろう。
2015.08.27
ArchiFuture's Eye ノイズ 豊田啓介
Facebookでいい記事が流れてきた。
“The Software behind Frank Gehry’s Geometrically Complex Architecture” と題された
この記事は、F. ゲーリーがその特徴的なジオメトリを実現するために開発に関わってきたソフ
トウェア技術や経済活動という点から、彼と彼の事務所のここまでの活動を簡潔にまとめてい
る。CAD/BIM業界にいる人には何を今更という内容かもしれないが、設計業界で実務をバリバ
リにやっている人や、ゲーリーが大好きで作品集いくつも持ってますという学生でも、こうい
う側面の事実や流れは結構知らないんじゃないかと思う。
僕も個人的に学生時代に一番影響を受けたのはゲーリーだったりするのだけれど、当時は当然
CATIAもDigital Projectも全く知らなかった。実は表面的に特徴的な形態よりもそれを実現する
ために彼らが経てきた過程や手法、その行動の蓄積のほうが歴史的な価値なんだと理解、体感
できたのは、SHoPでこうした複雑なジオメトリを「特殊解ではなく合理的なショートカットと
して」現実に落とし込むという創造的実務に取り組むようになってからだ。設計事務所がそう
いう産業構造の変革のためにリスクをとって投資する、技術会社を自ら立ち上げるとか日本じゃ
今でもまずあり得ないだろうと思う。
でもやっぱり一般にゲーリーと言えばヘンな形、ぐにゃぐにゃ建築の人だ。ゲーリーの功績を
産業技術的な視点から生産性や社会、建築経済への影響としてまとめた論考や研究は、いわゆ
るソフトウェア関連分野の専門性の外にまで届いているようなものはおそらくまだないんじゃ
ないか。
建築史や建築意匠など、いわゆる建築デザインの王道とされる体系では基本的なCAD史すら共
有されていないし、建築情報学という分野も全く体系化されていない(のはほんとヤバイでしょ
ということに関しては本コラムのVol. 2でも少し触れた)。ようやくマリオ・カルポのように
建築情報学的な視点を建築史に取り込める研究者も出てきたし、今後は建築情報学を工学、経
済学、社会学と融合させるような研究アプローチも広がっていくのだろう(そうでないと困る)。
新体系の既成の建築学問分野への接木がうまくいくことで、こうしたデジタル技術が本当に実
効的なプラットフォームとしてはじめて社会的価値を持ち始める。アメリカに比べて本質的に
社会構造が保守的な日本では、新技術の実業へのクリエイティブな応用はまだまだ開墾の時期
にある。この開墾には投資が要る。
でもまだ各大学に建築情報学系の研究室という受け皿すらないのが現状だし、指導できる教員
が居る大学すらまだ数えるほどだ。当然研究資金なんてどこからも出てこない。アカデミアが
やらないなら、こういう事こそ産業界の側でイニシアチブ取るべきじゃないだろうか。そこで
提案。Archi Futureに参加してくれるような企業のみなさんで持ち寄って、建築情報学の研究
助成基金作りませんか?