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コラム

BIM-MEP(AUS)の10年の取組みから
学ぶべきこと①~業界標準化の取組み~

2019.09.05

パラメトリック・ボイス                 日本設計 吉原和正

今回から数回に渡って、8月22日、23日にオーストラリアのメルボルンで開催された「Construction Innovation 2019 Forum」に参加してきて興味深かった以下の話題について
お伝えしたいと思います。
 ・Revit MEPによる業界標準化の取組み
 ・FMに繋ぐ、新たなコード体系「VBISコード」
 ・ジェネリックからファブリケーションへの連携
前回が「標準化」に関するテーマだったので、今回はこの中からオーストラリアでの地道な業
界標準化の取り組みについて取り上げたいと思います。

「Construction Innovation 2019 Forum」というのは、AMCA(Air Conditioning and
Mechanical Contractors’Association)という空調衛生工事業協会が主催する2010年から毎年
開催されているオーストラリアのMEPに関するフォーラムで、MEP分野でのBIM活用を促進す
るため、約15か国からのスピーカーおよび約300人の出席者が参加して行われました。そして
今年は日本からも、設計事務所やゼネコン、サブコン、ダクト製造会社、ベンダーなど総勢
約20名が参加しました。

オーストラリアでは2010年に設備業界でRevit MEPに統一することを決めて以来ネイティ
ブデータによる設計・施工・ファブリケーションの連携を推し進め、MEPに関しては業界標準
化がスムーズに進展し、ライフサイクルに渡ってBIMデータを有効に活用している事例が出て
きています。
その中心を担っているのが、BIM-MEPAUSという団体で、AMCAによって考案され、BIMワー
クフローや属性情報の標準化、標準化されたジェネリックオブジェクトとファブリケーション
パーツの提供、メーカーオブジェクトとの連携、およびBIM教育などを行なっていて、電気設
備も包含しています。
当初は設計事務所も中心を担っていたようですが、最近は施工や製造段階の標準化がメイン
テーマになっているようで創設から10年が経ち設計から施工にダイレクトに繋がるダクト
や配管などのファブリケーションパーツの整備もかなり進み実プロジェクトにおいて設計か
ら施工・製造へスムーズに連携できるようになってきているようです。

実はBIM-MEPAUSの代表者が3年前に来日してBIMライブラリーコンソーシアムとミーティ
ングを行ったことがあったのですが、その時にも強調していたのは、「共有パラメーター」整
備の重要性でした。関係者が統一のデータで情報共有するために、業界標準の「共有パラメー
ター」を整備しておくことで、メーカーについても同様の基準に則ったオブジェクトを提供し
てもらい、設計から施工へのスムーズなデータ連携を実現していました。
さらに、実際に製造することが可能なファブリケーションパーツも整備し、ダイレクトに変換
できる設計用ジェネリックパーツとマッピング可能なものにすることで、設計から施工・ファ
ブリケーションへの連携も可能にしていました。
ファブリケーションパーツを揃える上では、データ変換を容易にするために、今まで幾つもラ
インナップがあった部品を厳選して統一化したことで、製造工程の効率化についても一役買っ
ているとのことでした。これも、他国に比べて市場がコンパクトなこともあり、業界としてま
とまりやすい風土があったから実現できたようです。

一番驚いたのは、これらの標準を数人の実務者だけで行ってきたという事実です。ただ逆に、
少数精鋭の実務者だからこそ、業界で通用する一貫したデータ環境の構築が可能になったとも
言えます。ベンダー任せではなく、ユーザーが自ら汗をかき、そして自社で抱え込まずに積極
的に公開して、業界の標準類を整備してきた努力には感服する限りです。

「Construction Innovation 2019 Forum」では、BIM-MEPAUSとBuliding Smart Australia
が今後連携していくという報告もありました。
Revit MEPに統一してから、10年かけてネイティブデータでの標準化を行い、ようやく中間
フォーマットでのIFCに展開していける段階に来たということのようです。標準化とは、単な
る属性情報の統一だけではなく、シンボル表現や、ソフト上での振る舞い、コストやファブリ
ケーションFMデータとの連携命名規則など定義すべきことが膨大にあります。これをひ
とつひとつ使える標準類として整備していくためには、すぐに実現可能なネイティブデータで
実装する方が圧倒的に早かったのでしょう。オブジェクト(ファミリ)やテンプレートがカス
タマイズ可能でAPIが公開されたRevitであればある程度のことはユーザー側で調整可能なの
で、いちいちベンダーに実装してもらうまでもなく、ユーザー目線の標準データ構築をスピー
ーに実現することができます。それが収束した後にはじめて中間フーマトであるIFC
のプロパティセットを定義して、各ベンダーにIFC対応してもらうという流れが現実的なアプ
ローチだったのでしょう。
実際に使いながらでないと全ての要件を炙り出すことは難しいので、理想論でIFCを定義して
も各ベンダーが実装してネイティブデータにするところで多少の認識違いが生じ、結局は方言
交じりのIFCが乱立するだけでというオチになりかねません。使いものになる標準を構築する
には、ネイティブで先行して検証しながらブラッシュアップして、最終的に中間フォーマット
のIFCを実装するという流れが現実的なアプローチのような気がします。

日本では、RevitのネイティブデータについてはRevit User Groupが担っていて、MEPについ
ては私がリーダーをつとめている設備設計WGで、MEPの共有パラメーターや、テンプレート、
ジェネリックファミリを整備し一般公開しています。今後は、BIM-MEPAUSの取り組みを参考
に、国内の様々なBIMの委員会と連携しながら、ジェネリックからファブリケーションへの連
そしてメーカーとの連携を進め設計から施工・製造・FMへデータを繋げる環境を構築し
ていく必要があると感じています。

あと、詳細は次回にお伝えしますが、コード体系に関する興味深い情報があったので、速報と
してお伝えしておきます。
オーストラリアでは、コード体系としてベースはUniclassを採用しつつ、一部Omniclassも取
り入れ、良いとこ取りの運用を行なっています。ただ、設備については、これらのコードだけ
では足りないので、機器の種類を特定しFMに連携できるように、「VBISコード」というオー
ストラリア独自のローカルコードを追加して運用しようとしているようです。Uniclassに枝番
号を追加するのではなく、アルファベットで直感的に把握可能な別体系のコードを用いようと
しているのは大変興味深く、設備技術者としてもしっくりくるものでした。


今回初めてオーストラリアを訪問して実情を垣間見ることができました。オーストラリアでは
MEPの標準化がひと段落し、トップランナーが使いこなす段階から、普及段階に移行しつつあ
るように見受けられました。日本としても、オーストラリアがこの10年取り組んで来たことは
今後の進め方として大いに参考になると思います。今後も、オーストラリアとのMEPの情報交
換を継続していく必要性を実感した1週間でした。

吉原 和正 氏

日本設計 情報システムデザイン部 生産系マネジメントグループ長 兼 設計技術部 BIM支援グループ長