建築情報系研究室の卒業研究
2019.10.31
パラメトリック・ボイス 広島工業大学 杉田 宗
昨年登壇させて頂いたArchi Future 2018から1年が過ぎました。ありがたいことに、
Archi Futureでの登壇、またこの連載コラムのおかげで、その後様々なイベントで広工大での
取り組みについてお話させて頂く機会を頂きました。あれから1年が経ち、自分が広島でやっ
ていることを客観的に振り返ることを兼ねて、発表資料の作り直しをやっています。
これまでは広工大でのデジタルデザイン教育にフォーカスを当て、低学年を対象としたデジタ
ルデザイン系科目での学びを中心にした内容でしたが、2016年にスタートした建築デザイン
学科の1期生が今年4年生になったこと、また共同研究などが始まったことで、研究やプロジェ
クトが充実してきました。デジタルデザイン教育がどの様なアウトプットに繋がっていくのか
を、より具体的な例を挙げながら紹介できる様になってきたことを実感しています。
そこで、今回は杉田宗研究室が取り組んでいる研究についてご紹介させて頂こうと思います。
広工大の建築デザイン学科では、3年前期から研究室に配属されます。3年生は前回のコラムで
紹介させてもらったワークショップやパビリオンプロジェクト、『デザインスタジオ』を通し
て知識や技術を広げながら、リアルな課題に向き合って思考を深める1年になっています。そ
の後、2月頃から卒業研究のテーマについてリサーチを始め、4年のスタートと共に卒研のテー
マとスケジュールを決めていきます。以下が、2018-2019年度までの卒研テーマをまとめた
図です。
現在、杉田宗研究室では全ての学生が論文で卒業していきます。卒業設計や卒業制作の様に最
終的に物理的なアウトプットを残す学生もいますが、そこに行き着くまでのシステム開発など
の内容が研究の軸であり、その内容を論文にまとめる形を取っています。テーマは多岐に及び
ますが、図の中で縦軸となっている開発系⇔調査系の研究種類、横軸で表されている家具⇔建
築の研究対象のスケール、の2つの軸で整理することが出来ます。
例えば、昨年4年生だった杉田宗研究室のGHマスターこと中村瑞貴は進化的アルゴリズムを取
り入れたデザイン手法に関する研究を進めました。構造の最適化などで用いられる進化的アリ
ゴリズムを、デザインの最適化に使うことで、設計者やデザイナーによるデザインとは異なる、
「ユーザーによるデザイン」を実現するシステム構築を目指しました。具体的には、MITの
Digital Structuresが開発するStormcloudを使い、Grasshopper上でモデリングされたランプ
シェードのデザインを、対話型進化的アルゴリズムによって生成・最適化を行うシステムを開
発しました。最終的には一般の参加者に向けたワークショップを行い、Stormcloud上でラン
ダムに生成されるデザインの中から、ユーザーが好むデザインを選んでいくことで、好みに
あったデザインに絞られていくシステムになっています。デザインされたランプシェードは
レーザーカッターを使い加工し、その場で組み立てて持ち帰るという内容のワークショップで
す。一般の人にとっては、デザインをする行為やものづくりに触れる機会は少ないと思います
が、コンピュテーショナルデザインとデジタルファブリケーションでその距離を縮めることで
生まれる可能性について考えています。
コンピュテーショナルなデザイン手法の研究は、今年の4年生の奥川航太と中村祐介によって、
機械学習をテーマに継続されています。広工大の2年前期に『デジタルファブリケーション』
という授業があり、ここでは最終課題で「スタッキングスツール」のデザインに取り組んでい
ます。90人程度の学生が3人1組になってデザインと原寸での製作を行うので、毎年30脚くら
いのスツールが作られています。彼らはこのスツールのデザインとそれぞれの座り心地を教師
データに使い、座り心地の良いスツールはどういったデザインなのかを、コンピューターが提
案するシステムの構築を目指しています。広工大の特徴でもある、大人数に向けてのデジタル
デザイン系授業が、こういった形で研究をドライブするという循環が生まれ始めている事は非
常に楽しみです。
また、BIMも毎年卒業研究のテーマになっています。これまでにもDynamoを使ってRevitモ
デルから部材の数量を引き出し、建物の概算を算出するシステムの開発を研究した学生などが
います。単なる図面作成や3D検討としてのBIM活用だけでなく、BIMの新たな価値を生むよう
な研究を目指しており、今年はBIMとロボットの連携をテーマに同じく4年の澤海斗と長谷川
直人が取り組んでいます。ここでは、建物の維持管理で使われるお掃除ロボットを想定し、
BIMのモデルから部屋のレイアウトや材料の情報を読み取り、ロボットの最適な移動経路を割
り出した上で、実験用のルンバを動かしています。今後、様々なロボットと一緒に建物を使っ
ていくことになれば、BIMの恩恵を受けるのは人間よりもロボットなのかもしれないと感じ始
めています。
建築系学科における建築情報系の研究室がどういった研究をするべきなのかは、まだ明確な枠
組みが無い状態ではないかと思っています。設計寄りなのか、または研究寄りなのかも定かで
ない。私は建築分野の様々なところにある隙間を埋めていく様な役割があるのではないかと考
え始めており、卒論生単独だとか、うちの研究室単独で研究を進めるよりも、もっと幅広いグ
ループで研究を進められるのが理想だと感じています。研究を通して、専門性の高い知識を掘
り下げていくだけでなく、色々な人と関わりながら誰かと一緒に考えたり、とにかく思ったこ
とを試してみる経験こそが、大学の最後にやるべきことではないかと思います。新しい分野だ
からこそ、自分の興味を突き詰め、1年間という貴重な時間を、自分の研究のために贅沢に
使ってもらいたいと常々思っています。