建築BIMの時代4 BIMと職能
2019.11.07
ArchiFuture's Eye 大成建設 猪里孝司
10月25日にArchi Future 2019が開催された。今回で12回目となるが、過去最高の方々に
ご来場いただいた。うれしい限りである。出展企業も過去最高であった。実行委員会の末席を
汚す者として、ご来場いただいた方々はじめ関係者の皆様に御礼申し上げる。内容も過去最高
と言えるのではないだろうか。DS+Rのチャールズ・レンフロ氏の基調講演をはじめとして、
素晴らしい講演・セミナーが目白押しであった。レンフロ氏は初来日ということで、日本での
初めての講演であった。基調講演をお聞きになった方々は貴重な体験をされたことになる。
私もその一人となれたことを幸福に思っている。実行委員の豊田様のご尽力がなければ、
レンフロ氏の基調講演は実現しなかった。豊田様に深く感謝している。
私は、基調講演の他、『コンピュテーショナルデザイナーという新しい職能とその責任
-Morphosis ArchitectsとSCI-Arcにおける実践と研究が支える仕事の実際-』と『私はBIM
で会社を辞めました、そして起業しました -アルゴリズム建築の時代に向けたアクション-』、
そしてパネルディスカッション『現場所長が語る、BIM/ICT活用による施工現場の革新』を聞
いた。すべての内容が示唆に富むものであったが、それらを通してあらためて「職能」につい
て考えさせられた。
レンフロ氏は、“The Shed”の意義を説き、自らが中心となって建設資金を調達し、実現にこ
ぎつけた。また来日直前の10月21日にオープンしたMoMAの増築では、街と芸術を近づける
ために1階のギャラリーを無料で開放することを提案し、実現させている。建築の間接的な投
資効果を伝えることは難しい。その困難を乗り越えて、プロジェクトを実現させていることは
一般に考えられている「建築家」の職能を超越していると感じた。
杉原氏は、日本でコンピュータを学びアメリカで建築を専攻し、Morphosis Architectsでコン
ピュータ・プログラムを通して作品の実現に貢献してきた。建築家の要求に応えるだけでなく、
要求以上の解を提示しているところが「コンピュテーショナルデザイナー」という新たな職能
の所以である。建築家やプログラマーとは異なった価値を創り出し、提示しているところが素
晴らしいと思った。
起業した皆さんの中でも松本氏の起業に至るプロセスは大変面白かった。いくつかの企業で働
きながら新たな技能を身に着けながら、組織の功罪を体感し、自らが働きやすい環境を求めて
起業された。私と同年代である伊藤氏、藤沼氏の力強さに圧倒された。伊藤氏による日本の建
築産業の分析には全く同感である。そして、これまで培った経験や技能を社会に還元するため
に起業を決意されたことに心から敬意を表する。起業のきっかけとなったことが、コンピュー
タやBIMであったことをうれしく思った。
9月24日の石津優子さんの熱のこもったコラムからは、デジタルツールを手にして新たな職能
を目指す人たちのことが感じられる。また10月17日の松岡辰郎さんの示唆に富むコラムから
は、BIMマネージャーという職能が切望されていることがよく分かる。Archi Futureや
ArchiFuture Webからは、デジタルをキーワードに新たな職能が生まれつつあることが分かる。
そのことが硬直した日本の建築関連産業に変革をもたらす日が近いことを期待している。