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コラム

VDC(Virtual Design and Construction)から
一歩先へ

2019.11.21

パラメトリック・ボイス       ジオメトリデザインエンジニア 石津優子

VDCという言葉を耳にしたことがある方は、読者の方では多いのかもしれません。BIM界隈で
はかなり浸透している言葉ではあります。仮想空間で三次元モデルに情報を付加したBIMを用
いて、設計からエンジニアリング、建設における情報管理を統合的に行い、仮想空間上で施工
前に三次元モデルをつくることで設計したものを検証、再検討、解析、そして高度な最適化を
実現することで実際に施工する際の手戻りを極力少なくするという手法です。

BIMマネージャーのことを最近はVDCマネージャーと呼ぶことも増えたように感じます。仮想
空間で、施工を目指したモデルを作り上げていくという話を聞くと、いかにも設計モデルから
施工モデルまでスムーズにBIM化されていくような印象を受けますが、実際は意匠設計、設備
設計、構造設計と設計段階では、異なるモデルをつくる必要があります。オールインワンがあ
れば理想的なのですが、なかなかそうもいきません。それは、エンジニアリングで必要なモデ
ルというものが違うから生じるもので、同じ建物のモデルにも複数のデフォルメされたモデル
を同時並行でつくり、さらにそれらの整合性を保つ必要が出てきます。そして最終的には段階
的にモデルの精度を上げ、詳細部分もモデル化した施工モデルというものを作りあげます。

VDCは先ほど記述したように実際の建物を施工する際の手戻りや効率を上げるための手法です
が、VDCの手法に則ってモデルを作ると、仮想空間上で手戻りや繰り返しの作業に追われます。
最終的に施工モデルが追い付かない、統合したモデルが重たすぎて修正できないなどという問
題を実際にBIMモデルでプロジェクトを追いかけたことがある人ならば一度は経験したことが
あるかと思います。それはVDCという考え方自体が、まだ現実的ではないというよりも、モデ
ル作成の手順管理に問題があることが多いです。手順管理というのは、建物を実際に施工する
工程を組むのと同じように、どのようにモデルをつくるかというジオメトリの制作の手順をプ
ロジェクトの性質やスケジュール、リソースをみて管理するという意味です。前提として発行
図面と同じくらいにBIMモデルの精度が重要視されている場合に、BIMモデル変更工数も実際
の建物のエンジニアリングに影響を及ぼします。

そうした背景では、効率良く、かつ合理的にモデル自体を生成することが実際のエンジニアリ
ングの質、つまり建物の品質まで影響を及ぼします。すると、モデルを自動生成されるために
どのような基準平面を与えるか、どんな曲線や曲面をドライバーにしてモデルを生成するのか
という自動化エンジニアリングも非常に重要なテーマになります。同じモデルでも、作り方、
例えばジオメトリ生成のコマンド、extrude押し出しかloftロフトによってパラメータが変わり
ます。パラメータが変わると追従する拘束条件も変わります。簡単そうに見えるモデルの変更
をなぜか、難しいと伝えられたというときは、そのモデルの作り方が変更を伝えた人が予測し
た手順と異なることが多いです。どのプリミティブなジオメトリをドライバーにして、自動で
モデルを生成していくかというところがうまく組み立てできると、驚くほど高精度の詳細モデ
ルまで一瞬で作り上げることができます。それは自動化のノウハウは蓄積できるという性質か
らくるものではありますが、詳細モデル化するという利点は単に可視化の意味だけに留まりま
せん。プレファブやロボット施工の工程のシミュレーションまで繋げることができるところに
あります。シミュレーションできることで逆に設計までフィードバックが戻ってくるというこ
とが期待され、そのことで建物自体の品質、パフォーマンスが向上するというのがVDCが達成
した先の未来像なのではないでしょうか。データの通信速度は、年々上がっていきます。デー
タを処理できる容量も数年前に比べて格段に上がりました。まだ本当の意味でのVDCは達成で
きていないですが、近い将来必ず来るものです。

10月8日~9日に開催された3DEXPERIENCE FORUM JAPAN 2019で紹介されたCadMakers
の「デジタルツイン」という等身大BIMという事例は、”One to one digital representation
of a physical asset,where both the geometry, performance specs, and associated data
are captured”と説明されていましたが、製造業のノウハウを組み込んだ手法でモデル自動生
成から加速されるエンジニアリング、施工の実現の可能性を感じました。建設の生産の未来を
描くのは、今取り組んでいる建設業の人たちです。働き方も含めて、環境や人に優しい建設業
が実現するために私たちがまずできることは、仮想空間と実空間のモデルや情報価値の溝を埋
めていくことかもしれません。



石津 優子 氏

GEL 代表取締役