ヒロシマBIMゼミ2019年総括
2020.01.07
パラメトリック・ボイス 広島工業大学 杉田 宗
新年明けましておめでとうございます。いよいよ訪れたオリンピックイヤーとなる2020年の
幕開けを、皆様はどのように迎えられたでしょうか?
ここ数年は年ごとの変化が大きく、それが私の活力になっているのですが、その中でもコンス
タントな活動を続けているのが『ヒロシマBIMゼミ』です。以前「広島をBIMの街に!」とい
うタイトルのコラムでも紹介させて頂いた、広島のBIMを盛り上げていく活動を、昨年も1年
通して続けました。
『ヒロシマBIMゼミ』は広工大の『BIM実習』を担当する田原泰浩(田原泰浩建築設計事務所)
と長谷川統一(杉田三郎建築設計事務所)に私を加えた3人が中心となり、広島でBIMについて
の意見交換ができる場として以下の3つの目標を掲げ、2017年より2ヶ月に1度のペースで開催
しています。
・BIMの活用と普及の推進
・BIMを活かした横断的なコラボレーションの誘発
・BIMを始めとする、建築における新たな情報技術の研究
昨年も6回開催し、毎回異なるテーマでBIMやコンピュテーショナルデザインについて学び、
議論する場を作ってきました。今回はその内容を振り返りながら、『ヒロシマBIMゼミ』がど
の様なビジョンを持って2020年以降の活動を続けていくのかをお話したいと思います。
第9回目となった2月は「メーカーのBIM」というタイトルで、BIMや3DCADを活用している
メーカーさんに登壇して頂きました。BIMを使った設計の中でも、ファミリーの提供やシミュ
レーションなどで話題にあがることの多い、エレベーターメーカー・照明メーカー・サッシ
メーカ―の3社から、実際どの程度BIM化に向けて進んでいるのかをお話頂く機会になりまし
た。業種が異なるので、その状況はまちまちですが、座談会ではそれぞれの立場や取り組み方
を知った上で、自分たちのビジネスをどのように変えていくのか?という話題にも及びました。
例えば、エレベーターメーカーが設計段階においてBIMモデルを作成することは、その後の施
工や維持管理にも直結しているわけで、照明メーカーも納品して終わりではなく、そこから新
たな価値を作るようなビジネスに変わっていく時にこそ本当にBIMに移行する時、という結論
に至りました。これは、設計者や施工者にとっても重要な視点のように感じました。
4月は「田原設計と杉田設計のBIM」と題して、主催者である我々がBIMやコンピュテーショナ
ルデザインを活用しながら取り組んでいる仕事についてお話しました。ARCHICADを使って設
計をしている田原先生は、当時進行中の保育園やマンションリノベーションで、ARCHICADの
新機能やLumionを使い、どの様に設計を進めているのかを細かく紹介してくれました。杉田
設計の長谷川さんからは、福西健太建築設計事務所と協働で設計・監理を進め、昨年の2月に完
成した「かも保育園ハッチェリー」を紹介してもらいました。この保育園の設計では、初期段
階にて遺伝子的アルゴリズムを使い、全体の形状や開口の検討をおこなっており、建築の構成
に関わる部分でコンピュテーショナルデザインを多用した建築になっています。また、施工図
の大半をBIMで描くなど、杉田設計にとって様々な新しい試みが建築として実現した作品です。
6月には、広島が置いて行かれる勢いである名古屋から、田村尚土さんを招いて「名古屋で起
こるデジタルブリッジング」を開催しました。自身が関わられた膨大な数のプロジェクト紹介
に圧倒されながら、田村さんの教育と社会を繋げようとしている姿勢に大変共感しました。コ
ンピュテーショナルデザインなどに興味を持つ学生が多いのも名古屋の特徴の様に思います。
先日、今度は私が名古屋にお邪魔し、「Enjointing Spaghetoini」というイベントに参加させ
てもらいましたが、本当にモンスター級の学生達がゴロゴロいて、カルチャーショックを受け
ました。その話はまた別の機会で。
8月は「BIMと確認申請」というタイトルで、ARCHICADを使い確認申請を行っているixreaの
吉田浩司さんと、日本ERIでBIMを使った確認申請に関わっておられる関戸有里さんに登壇頂
きました。設計にBIMを導入しようとしている人なら、だれもが気になるテーマだと思い、い
つか実現したいと考えていた内容です。またまだハードルは多いけれども、吉田さんのように
先駆的にBIMを使い確認申請業務を行っていらっしゃるお話を聞くと、いよいよBIMを始めて
みようと思った参加者も多いはず。また、同じBIMモデルでも作り方によっては、面積の算出
方法が異なったりと、この先基準がないまま進んでいくことの難しさが浮き彫りになりました。
大学でBIMを教える立場としては、大学こそが今後そういった基準に沿ったBIM教育を進めて
行く必要があるのではないかと考えました。
11月の開催になってしまいました、10月分はこれまでの最高参加者数を記録した「大林組設
計のものづくり」。大林組大阪本店設計事業部から意匠の大島史顕さんと、構造の藁科誠さん
にご登壇頂き、大林組が目指す設計施工一貫利用である「ワンモデルBIM」についてご紹介頂
きました。大規模なプロジェクトが多い中で、複雑に繋がる関連業者とどの様にBIMモデルを
共有し、建築を実現させていくのかについてお話頂きました。日本のBIMを引っ張るスーパー
ゼネコンが、どの様なビジョンで自分たちの働き方を変えようとしているのかを直に聞けるの
も『ヒロシマBIMゼミ』の価値になってきているなと感じる回でした。
昨年の締めくくりは「BIMとxR」と題して、サボォア邸のVRで有名なmozさんをゲストに招
いて、xRの可能性についてお話頂きました。これも『ヒロシマBIMゼミ』スタート当時からや
りたかったテーマで、2019年の最後に相応しい内容でした。紹介していただいた作品の中には、
単なるビジュアライゼーションを超えたVRの活用も含まれており、今後建築業界において、
xRが担っていく役割の重要性を実感するには十分でした。学生達にとっても、大学では教える
ことが出来ていないゲームエンジンの可能性について知る良い機会になったと思います。
以上、昨年の最終回で第14回目となった『ヒロシマBIMゼミ』ですが、早速次回15回目の予定
も決定しております。次は「デジタルファブリケーションの現場」と題して、2月28日(金)に
開催予定です。広島でもすこしずつ増えてきたデジタルファブリケーションを活用した建築や
インテリアのプロジェクトにフォーカスし、今後のデジファブ建築の可能性を探っていきます。
興味のある方は是非お越しください。
そんな『ヒロシマBIMゼミ』、今年を次のフェーズに突入する年と位置付けています。つまり、
目的の2つ目である「BIMを活かした横断的なコラボレーションの誘発」を、実践を通して実
現させていきたいと考えています。地域をベースに、業種や能力を超えてBIMを介して繋がる
特別なチームを広島に作り、『ヒロシマBIMプロジェクト』として活動をスタートさせたいと
準備を進めています。スーパーゼネコン各社で展開しているBIMを活用した建築を、地方の中
小企業が一丸となって実現することで、また違った形でのBIMの可能性を示していきたいと
思っております。この思いに賛同していたける方は、是非『ヒロシマBIMゼミ』に参加して頂
き、深夜まで続く恒例の事務所飲みで熱い気持ちを交換させてください!