BIM-MEP(AUS)の10年の取組みから
学ぶべきこと③〜VBISコード〜
2020.01.09
パラメトリック・ボイス 日本設計 吉原和正
前回に引き続き、オーストラリアのメルボルンで開催された「Construction Innovation 2019
Forum」に参加してきて、興味深かった話題についてお伝えしたいと思います。
3回目は、FM(ファシリティーマネージメント)へデータ連携するためのオーストラリアのロー
カルコード体系、「VBISコード」に関する話題です。
オーストラリアのローカルコード体系「VBISコード」は、「Virtual Buildings Information
System」の略で、BIMデータからファシリティーマネージメントシステムに変換する業界標
準のコード体系として定めたもので、2019年6月に公開されたばかりの出来立てほやほやの
コード体系です。
FMに変換する標準フォーマットについては、「COBie」という国際標準の規格があるではな
いかと思われる方も居ると思いますが、「COBie」はスプレッドシートでの標準フォーマット
を定めたものであって、BIMデータとの相関がとれるようになってはいるものの、BIMデータ
の情報をすべて「COBie」に変換できる訳ではありません。そういう意味で「COBie」はミニ
BIMと言われることもあり、スプレッドシートで管理している、比較的初歩的なファシリ
ティーマネージメントのためのツールだと捉えた方が良いかもしれません。
実際に、オーストラリアでのCOBieパラメーターの利用実態について聞いてみたところ、BIM
データには皆が必要とする最低限のものだけしか入力しておらず、ほとんどのものは外出しし
て管理しているとのことでした。オーナーは、必ずしもスプレッドシートだけでアセット管理
している訳もなく、スマートにFMソフトを利用してアセット管理を行う時には、直接BIMと連
携可能なコード体系が必要になり、そのために「VBISコード」を開発したとのことでした。
コードと言うと、UniclassやOmniclassという分類コードがあるではないかと言う意見もある
と思います。当然、オーストラリアでも基本的にはこれらの分類コードを採用していて、
Uniclassを基本にしつつ、アメリカが進んでいるCAMについてはOmniclassを併用する、良い
とこ取りの運用を行っています。ただ、下記の表にあるように、設備についてはUniclassや
Omniclassの分類コードではカバーしきれていない空白部分も多数残っているため、機器の種
類を特定しFMに連携できるように、オーストラリア独自のローカルコードとして新たに
「VBISコード」を考案したとのことでした。
UniclassやOmniclassだけでは、設備機器の形式を特定することができず、コストに関する利
用シーンでは、科目ごとの概算集計程度の粒度にしかなっていないのではないかと感じていた
ところだったので、この考えは理解できましたし、Uniclassに枝番号を追加するのではなく
(将来は追加して国際標準化する可能性もありますが)、アルファベットで直感的に把握可能な
別体系のコードを用いようとしているのは大変興味深く、設備技術者としてもしっくりくるも
のでした。
(ちなみに、コードには、製品やシステムだけでなく、空間や活動など様々な視点に立った分
類コードがあること。そして、分類コードと単価コードは、連携する必要はありますが、同一
のものとして混同すると混乱が生じることは、付け加えておきたいと思います)
日本にも「CI-NETコード」という標準建設資機材コードがありますが、設備についてはメー
カーのカタログのラインナップに近い、かなり細かい分類になっていて、ユーザーがコードを
選択するにはちょっと煩雑な体系になっている気がしています。「VBISコード」は体系的に
コンパクトにまとまったものになっている印象で、日本で言えば、公共建築設備工事標準図に
記載されている、機器の形式記号、例えば「FCU-CID」と良く似ているため、日本で同じよう
にローカルコードを新設する際には抵抗なく実現できるのではないかと思いました。
ちなみに、筆者がBIMによる設備の自動設計を実現するためにも、この考え方と同じように、
機器に「符号」という共有パラメーターを設け、そこに公共建築設備工事標準図を元に、例え
ば「FCU-CID」という値をジェネリックファミリに入力して運用しています。この「符号」と
いうパラメーターを設けておくことで、プロジェクトファイルの全データの中から、機械設備
というカテゴリーだけではなく、FCU「ファンコイルユニット」という機種を特定し、更に
CID「天井吊(隠ぺい)形(両ダクト形)」という形式を特定し、抽出することで、それぞれの番
手の自動選定を実現しています。
形式まで特定できることで、天井隠ぺい形なのか、カセット形なのかを判別でき、デザイン上
の調整も可能になりますし、フィルター交換など維持管理上の確認も可能になります。
このように、「VBISコード」のようなアルファベットによる別体系のコードは、設計でも維
持管理でも、直感的に判別しやすくわかりやすいコードとして有効に機能するのではないかと
思っているところです。
「VBISコード」は、メルボルンがあるヴィクトリア州の支援を受けて開発されたものです。
もともとオーストラリアは、どちらかというと政府からのトップダウンではなく、業界団体か
らのボトムアップで標準化を行い、BIMの普及を進めてきていましたが、ここに来て州政府も
戦略的にアクションを起こし、ガイドラインの整備を進めようとしているようです。ロード
マップも示されていて、第1ステップが1-2年、第2ステップが2-5年、5年目以降にデジタル社
会基盤を整備して、様々な活用を行っていこうとしているようです。
下の図は、「Construction Innovation 2019 Forum」で紹介された、オーストラリアでの
BIM活用に関するイノベーション普及曲線ですが、現状の日本に比べてかなり普及が進んでい
ることが見て取れます。さらに今後、州政府と業界団体が一丸となって進めようとしている、
これからのオーストラリアのBIMの進展に対して、日本も遅れを取らずに追いついていけるよ
うに、急速にキャッチアップしていく必要性に駆られた、今回のオーストラリア訪問でした。