カタチの文法化
2015.09.17
パラメトリック・ボイス アンズスタジオ 竹中司/岡部文
岡部 シェイプ・グラマーという言葉がある。どうやら、形にも文法が成り立つのだ。
1972年、ジョージ・スタイニー氏とジェームス・ジップス氏によって定義された言
葉だね。
竹中 1972年といえば、ちょうどパーソナルコンピュータが誕生する頃のこと。数学的思
考が芸術の世界にどんな可能性を持っているのか、美しさを求めて盛んに探求した
時期だ。
岡部 芸術において、いったい何が美しさを生み出しているのか、それを何とか理解するた
めに、数学的なアプローチで形態生成の手法を模索していたんだ。
竹中 スタイニー氏らは、チョムスキーが唱えた句構造文法に注目し、文章が言葉と文法に
よって組み立てられるように、形も要素と文法によって構成できるのではないか、と
考えた。
岡部 そこで、考案されたのがシェイプ・グラマー(形態文法)という考え方だ。
シェイプ・グラマーとは、形の構成構造を生み出すルールのこと。具体的には、形を
構成する要素同士の関係性を記述したものである。
竹中 そしてさらに、形のふるまい方を記述したスキーマ・グラマー(図式文法)と組み合
わせることで、ジェネレ―ティブ・スペシフィケーション(形の生成指示書)が完成
するとされている。
岡部 形の文法構造だけに注目するのではなく、さらに、その背後に隠れた「形のふるまい
方」のルールに注目していた点が、40年以上も昔の考え方なのに、とても新鮮に感じ
るね。
竹中 そうだね。建築において、シェイプ・グラマーの考え方は頻繁に取り上げられている
けれど、実は、その背後にあるスキーマ・グラマーの可能性に大きく注目しているん
だ。
岡部 形自身の成り立ちだけではなく、それらが全体や周囲に対してどのように順応してゆ
くのか。その関係性を文法化してゆくことが新しい建築像につながってゆくのではな
いか。
竹中 目に見える形を操作して最終的な形態を導くのではなく、形の背後にある意味(美し
さ)を設計し、必然的に形が決定される。本来、建築家が追い求めてきた、形の根源
的なしくみを扱おうとする手法が、コンピュテーションの力によって、いよいよ実現
しようとしている。