ヴィジュアル・プログラミング・ランゲージの時代
2015.10.06
ArchiFuture's Eye ノイズ 豊田啓介
ヴィジュアル・プログラミング・ランゲージ(VPL、グラフィカル・プログラミング・ラン
ゲージとも言う)の時代が来てる、と断定したい。
VPLというと以前は教育向けに、簡易にプログラミングのコンセプトに慣れ親しむ目的のもの
が多かったが、最近はデータフローや論理ダイアグラムを感覚的に扱いながら本格的なプログ
ラミングを実装する、より感覚的にデザインを行うための実務技術として汎用性を獲得しつつ
ある。
今では使われるジャンルも多岐にわたるが、たぶん特定の分野で最初に大きなブームを形成し
たのは、90年代の電子音楽界でのMax/MSPだろう。その後一時下火になったが、最近またそ
の簡易さが見直され、ハードの計算能力の向上なども手伝って以前より汎用化は進んでいるか
もしれない。Max自体が不断のバージョンアップで使いやすくなっていることはもちろんだが、Pure Dataなど他の新しい音楽生成用VPLも出てきて、多様で複合的な生態系が整備、蓄積さ
れている点も大きそうだ。
VPLは単独で完結させるものではない。テキストベースの従来のプログラミングや他の専門的
ソフトウェアを組み合わせてカスタマイズを行い、より高度な操作をその都度構成できる、
ソフトウェアや言語の枠に制限されないオープン性が肝だといえる。まずは全体のラフスケッ
チを描くようにVLPでプロセスの大まかな形をつくり、必要な部分の異なる解像度を他のツー
ルを駆使しながら描きこんでいく・加えていくような使い方だ。コンピューティング環境とは
本来ユーザーとして(受動的に)与えられるのではなく、必要に応じて(能動的に)その都度
つくるものだ。
建築の世界でも、Rhinoceros上で動くGrasshopperが席巻しはじめてようやく7-8年になる。
それまではひたすら同じような作業を半分眠りながら繰り返し、何かプロセスモデルの初期段
階で変更があれば1ヶ月分の作業を巻き戻してもう一度同じ作業を繰り返すようなことをして
いた中で、出たばかりのGrasshopperを初めて見たときのついにキター!!!!感は今でも鮮明に
覚えている。
RhinoでのGrasshopperの成功は必然だったとして、当然他のソフトウェアでも同じような
動きが進んでいる。RhonoとGrasshopperはどちらかというと個人向けのモデラーとそのVPL
(Grasshopperの場合はGraphical Algorithm Editorという)という位置づけだが、当然建築
の世界ならBIMでも同じような動きが出てくる。最近特に話題なのがRevit上で動くDynamoだ
ろう。DynamoはGrasshopperとほぼ同じようなインターフェースと構造で、BIMソフトであ
るRevitを扱うことができる。SHoP出身のCaseのメンバーなどが積極的にカスタムツールを開
発するなどして(そして最近Caseはその開発能力を買われ、企業ごとWeWorkに買収された)、
これまでオープン性とは相性が悪かったBIM環境のカルチャーを変えつつあることでも注目さ
れている。ノイズでもDynamoを使い始めているが、BIM独特の固さ、複雑さがどうしてもGrasshopperに慣れた感覚にはストレスに感じる部分はあるものの、Grasshopperの初期に
感じたストレスとその後の進化速度を考えれば、BIMでも間違いなくVPLがデフォルトになって
いくのだろうと感じる。
最近はVectorWorksでもMarionetteというVPLのベータ版がリリースされたし、ゲームエンジ
ンなどの世界でもVLPベースでモデリングやプログラミングを扱う方向へ流れは加速している。
やはり後発のものには新しい便利な機能や構造が付加されていて、生態系の進化過程を見てい
るような感慨すら覚える。オープン化の流れともリンクして、今後多様なVPLインターフェー
スは建築やゲーム、音楽などの狭小な分野にとどまらず、経済から法律から、あらゆる知の体
系を横断する情報構造のプラットフォームになっていくだろう。ネットを介した圧倒的な集合
知が初めて能動的に扱えるようになりつつあるこの時代、そうしたデータ構造を感覚的に、で
も客観的に扱おうとするこの潮流はもう止めようがない。
「デジタルで設計する奴はスケール感を見失うからダメだ」とかいう苔生した批判はもう聞き
たくない。スケールを、分野を自由に横断できることこそが新しい次元なんだし、そこにあわ
せて僕らのほうが変われるかが鍵なんだから。