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コラム

建築BIMの時代8 BIMはいつ普及するのか

2020.07.21

ArchiFuture's Eye                 大成建設 猪里孝司

つい最近読んだ本にパラダイムシフトについて触れられていた。パラダイムシフトという言葉
は、1971年に刊行された「科学革命の構造」という科学史について書かれた書籍で、初めて
使われたそうだ。私自身この本を読んでいないので孫引きになてしまうが地動説やダー
ウィンの進化論などの科学革命が受け入れられるようになったのは、時間が経過して世代交代
が起こったからだということを明らかにしているそうだ。画期的な大発見も、科学界で受け入
れられるには世代交代が必要だったということだ。それまでの常識を覆すような画期的な大発
見だから世代交代のような時間が必要だったとも考えられるが、腑に落ちるところがあった。
 
BIMはいつ頃一般化するのでしょうかと、問われることがある。その時は「あと10年か15年
でBIMは特別なことではなく、普通に使われるようになりますよ」と答えている。質問された
方は「来年には」とか「あと3年で」というような回答を期待されているようで、私の答えを
聞き、がっかりしたような反応をされる。誠に申し訳ないが、実際に建築に関わる業務でBIM
が一般的に使われるようになるには、それくらいかかると思っている。「建築BIMの時代」と
いうタイトルと正反対ではないかと思われるかもしれない。言い訳を言わせていただくと、
現在は、建築BIMが建築に関わる業務で一般化しつつある時代だとの認識である。建築BIMが
一般化した時に「現在は建築BIMの時代」ですと言ったところで、何を当たり前のことを言っ
ているのだと思われるだけである。建築CADやユビキタスコンピューティングが当たり前の
時代に「現在は建築CADの時代」とか「現在はユビキタスの時代」と言わないのと同様に、
建築BIMが一般化した時に「建築BIMの時代」ですと言いたくないので、建築BIMが一般化す
ることが明らかになってきたので「建築BIMの時代」というタイトルをつけさせていただいて
いる。
 
ちなみにBIMが普及するのにあと10年か15年の時間がかかるかと思っているかというと、
CADの普及を見てきたからである。若かりし頃社内でCADの普及に努めており、CADの利点
をいろいろ説明した。私の力不足もあるが、CADが便利だということでCADが受け入れられる
ことはなかった。ワープロやスプレッドシートなどのオフィスソフト、電子メールやインター
ネット利用のために、オフィス内で一人1台のパソコンが設置されたことがCADの普及につな
がっていると感じている。日々の業務でパソコンを使うようになり、パソコンで図面を描いた
方が便利だと思う人が増え、いつの間にかCADが一般化していた。パソコンでCADが使われ始
めたのが1990年ころで、CADが一般化したと言えるのは2000年代の中ごろから後半であった
ことを考えると、15~20年の時間がかかったことになる。2009年が日本の建築BIM元年だと
すると、2025~30年にはBIMが一般化すると思っている。確固たる根拠がある訳ではないが、
BIMが普及するまでには、それなりの時間がかかると漠然と思っていたところに、パラダイム
シフトの実現には結果的に世代交代が必要だったということを知り、大いに首肯した。
 
前回は、BCFやCDEに触れた。今回はBIMとVDS(Virtual Design Studio)について書こう
と思ったが、次回にさせていただく。なお、冒頭の本は「2020年6月30日にまたここで会お
う」(瀧本哲史著、星海社刊、2020)である。

    自邸内アトリエのアアルトの机

    自邸内アトリエのアアルトの机

猪里 孝司 氏

大成建設 設計本部 設計企画部長