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コラム

オンラインの手触り

2020.07.30

パラメトリック・ボイス            木内建築計画事務所 木内俊克

筆者は、個人的なつながりから美術や身体芸術関係の方とお付き合いさせていただくことも多
く、特に2015年ごろから、本格的には2018年から、クロスジャンルでダンス/演劇/音楽/
映像/美術/空間のクリエイターたちが集まて実験的な作品を発表するwhenever wherever
festival(以下、wwfes)というフェスに、空間デザインの立場から関わっている。2018年に
開催したフェスは、北千住のBUoYというスペースで4日間にわたり開催したのだが、元々銭湯
だったスペースの仕上げが一部残されまた劇場に転用された空間の中、柱梁に沿って6区画の
グリッド状に空間を分割し、それぞれのスペースで同時多発的に様々な公演を断続的に開催す
るという、とても実験的で刺激的なものだった。

 「whenever wherever festival 2018」©木内俊克

 「whenever wherever festival 2018」©木内俊克


その広場と劇場のどちらでもあったような、パブリックスペース的なフェスの形式に可能性を
感じた私たちは、この発想を起点に、実際により広範囲の都市自体を舞台に見立てていくよう
な、日常と公演が融け合っていくような形式のフェスをつくれないかと考え、アーツカウンシ
ル東京の助成プログラムに応募し、2019年に3ヶ年プロジェクトとして採択
され、現在までそ
の可能性を模索すべく準備を進めている、という段階だ。
 
そして2020年度。
今年度は最終年度に向けて一度内容を掘り下げ、参加メンバー各自でも企画の深化を図る期間
と位置づけ、各自リサーチと月一の定例を展開するものとしていた中、例にもれず、コロナ禍
の影響をもろに受けるかたちで、wwfesの定例もすべてオンラインというかたちに強制的に切
り替わった。
このことは、特にダンスや演劇など身体表現により作品制作を行っているメンバーが核となっ
たコレクティブであるwwfesにとっては大きなことで、結果的に、まずはオンラインという環
境でのコミュニケーションとはそもそもどんなものなのか、その可能性と限界は何かを、つぶ
さに探索するような作業を行ってきている。そして先月6月30日、定例の一環として京都市立
芸大のオンライン講義にメンバー全員で参加し、「場」としてのオンラインの可能性を探る試
みが行われたのだが、それが存外に面白かった。

 「まつりの技法の現在形 whenever wherever festival @ プールリバー」
  ©Body Arts Laboratory

 「まつりの技法の現在形 whenever wherever festival @ プールリバー」
  ©Body Arts Laboratory


アイデアは単純だ。形式は2018年に実空間で行ったフェスと同様に、オンラインミーティン
グアプリのグリッド表示を使い、wwfesメンバーと聴講者含む60人が同時にその場に「いる」
ことを可視化しそこで登壇者はそれぞれの場でそれぞれの日常の延長を過ごしながら、同時
にプールリバーにも参加する、という試みだ。あるメンバーは二人で代官山TSUTAYAの内外
でコーヒーを飲んでデスクに座ったり、デッキをふらふらしたりしながら、別のメンバーは料
理をしながら、また机の上でメモを取ったりの作業をしている手の部分だけを日常の場として
切り出してきて画面にうつすメンバーもいれば、普段利用しているエスカレーターを延々上り
下りしながら参加するメンバーもいる、といった具合だ。
 
今回のこの試みの結果見えてきたのは、うまく使えばオンラインにはオンラインなりの手触り
のようなものがあり、それは通常顔と顔を向けて行われるコミュニケーションとはまた別の、
それでも確かな身体性を感得できるようなものであるようだ、ということだった。
 
2018年のフェスで面白かったのは、通常一緒に鑑賞されることのないいくつかの公演が、広
場の大道芸のようにすぐうしろで同時に開催されることで、それらが互いに干渉し合う偶然の
中から意図しない関係が生まれ、それが今まで意図していなかった新しい身体表現やコミュニ
ケーションの可能性を創発していくところにあった。この点でオンラインミーティングアプリ
のグリッドビューあるいはスピーカービューにおける空間・時間の共有も基本的な機能の方向
性は変わらないのだが、あえて言えば、様々な時間や空間の接続が、ある種物理的な空間の同
時多発よりも粗削りに発生し、見る側もその情報の切り替わりや接続に対し、物理空間に居合
わせるよりも、より直接的にさらされるような空間が特徴的であったということができるので
はと考えるに至っている。オンラインでのコミュニケーションは、物理空間と差が無いようで
ありながら、コミュニケーションの手がかかりになるのは相手の映像と音声で、実空間で面と
向かう際に得られるような五感をとおした豊かな情報量とはやはり異なる。ことダンス・身体
表現ともなると、その五感の部分の共有が非常に大きなファクターを占める為、オンラインで
はコミュケーシン密度はどうしても下がるわけだが、その情報の粗さを逆に利用するように、
オンラインアプリをとおして交わされる言葉と身体のセットの映像と音声の並置は、積極的な
誤読や、新しい意味の解釈、発想の転換といった類の行為を促すような媒介として働いていた
とでも言えるような感じだ。
 
2021年度に向けてwwfesでは、引き続き都市に融け出していく公演の具体的な構築の作業を
進めていく予定だが、今回の試みをとおし、メンバー全員がオンラインと実空間の同時的な展
開に手応えを感じており、またその具体化が進んだ折には、ここでもその報告をしていければ
と思う。
 
ちなみにwwfesでは、これらの実験結果の報告や、(実空間での活動が再開できる状況になれ
ば)公演の準備や公開リハの情報共有などをnoteを使って行っており、詳しいレポートはそち
らにあがっている
興味のある方はぜひ覗いてみていただきたい。
 

木内 俊克 氏

木内建築計画事務所 主宰