未来の自動販売機
2020.08.06
パラメトリック・ボイス
アンズスタジオ / アットロボティクス 竹中司/岡部文岡部 街のいたるところにある自動販売機。日本自動販売システム機械工業会によると、
2019年の12月時点での自動販売機合計普及台数は、284万8800台にのぼると言う。
台数はアメリカに及ばないものの、面積あたりに換算すると普及率は日本の方が高い。
購入できるものの幅も広がり、購入する手段も様々な方法が可能になったが、実は最
古のものは、紀元前の古代エジプト時代にまで遡ることができる。
竹中 古代エジプトの寺院に設置された、聖水を販売するための装置だね。とてもシンプル
な機構で、硬貨を投入すると、その重みで栓が開き、そして蛇口から水が出る仕組み
になっていたようだ。アレクサンドリアの科学者、ヘロンが著した「気体装置」に描
かれている。
岡部 現存する日本ではじめての自動販売機は、「自働郵便切手葉書売下機」だ。木製の小
さな箱で、売り切れていた際にコインが戻ってくるコインリターン機構もついた、画
期的なものであったという。今ではこんなにも生活に根付いているけれど、アメリカ
で当時流行していたカップ式の自動販売機について、1951年の朝日新聞には『とても
味気ないもの』と評されていたようだ。
竹中 しかし、Vending machine(vending=売る、machine=機械)、つまり「売る機械」
は、ここ数年で「機械」の枠を越えようとしている。今のこの感染症拡大の状況も相
まって、自動あるいは非接触のスタイルは価値をさらに付加され、無人の販売「機械」
から無人の店舗「空間」へと進化しているのだ。そして、ここにロボットの活躍が見
られるようになってきた。
岡部 Amazon GOをはじめとする無人店舗や、Starbucks Delivery KitchensのSelf
Service Station、サラダの自販機ファーマーズ・フリッジや、ロボットカフェCafe X
などもその一例だ。アプリを介してオーダーをし、淹れたてのコーヒーや搾りたての
ジュースを、至極良いタイミングで、且つ、待たされることなく手に入れることがで
きるようになってきた。
竹中 そうだね。彼らが目指しているのは、『とても味気ないもの』からの脱却だ。利便性
だけを叶えるものではなく、ちょっとした幸せや、日々の生活に豊かさをもたらす、
フィジカルな体験である。
岡部 味気のなさをなくすためには、どのような経験をデザインしてゆく必要があるのだろ
うか。行きつけのお店に通い、好きな景色を眺めながら、マスターと話をし、一杯の
コーヒーを飲むような、そんな気軽で爽やかな経験が、ここ数年で新たな一歩を踏み
出すだろう。
竹中 私達がこの数ヶ月で失った、人らしい豊かな体験を分析し、これを再構築する。かつ
てとは違った形ではあっても、それはさらに進歩をとげた面白い体験を運んでくれる
はずだ。