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コラム

【BIMの話】オンライン向きの身体(からだ)

2020.08.18

パラメトリック・ボイス                竹中工務店 石澤 宰

ツイッターアカウントを実名にするかどうかは難しいところです。私のように企業に所属する
人間は、自由にあれこれつぶやこうと思えば匿名にしておく選択肢もあり得ますが、私のは学
生の頃から使い続けているアカウントで、何の気なしに実名にしてしまってそのまま今に至り
ます。サブアカウントを作る手もないではありませんが、それを管理できるマメさが私にはあ
りません(実証済みです)。結果、たまにしか更新されない私のタイムラインの最近の話題は
主としてでんぱ組.incのオンラインライブの時であり、それを主として仕事でつながった方に
見られる、という状況が発生しています。

オンラインライブにもいろいろあって、それぞれ在宅で録音して公開するパターン、通信の遅
れを克服して同時演奏を試みるパターン、演者だけは集まってスタジオから放送するパターン、
ライブハウスを借りて無観客で開催するパターンなど様々です。演出面でも、観客とのコール
アンドレスポンスをチャットなどで試みたり、観客代表を招いたり、VJなどで変化を持たせた
りなど、さまざまな方法でライブに劣らないエンターテインメントを提供しようとする手法が
急速に蓄積されてきています。

ライブは会場で大音量の演奏を聴くことが全てではなく、その臨場感や一体感をはじめ、会場
に行くこと、物販の列に並ぶこと、ファン同士で交流すること、終了後に余韻に浸りながら
ビールを飲むことなどを含んだ一連のイベントであり体験ですから、その全てがオンラインで
完結するわけではありません。しかし、場所を問わず子供らを連れても参加できる、チケット
が比較的安価である、飲食できたりトイレに自由に行ける、ヲタ芸をガチガチに打っても周囲
の迷惑にならない、ツイッターで中継できるなどのメリットもあります。

この半年間、さまざまなイベントが中止・延期になるなか、オンライン化したイベントに参加
された方も多いと思います。とくにウェビナーは参加の間口が広がったことで、これまでは見
送ってきたようなトピックの講座に参加した方もいるのではないでしょうか。概ね、上に挙げ
たようなメリット・デメリットが当てはまるのではないかと思います。

それに加え、オンライン打ち合わせの特性も徐々にはっきりと意識されるようになってきまし
た。BBCの記事"Why Zoom video chats are so exhausting"では、表情や身振り手振りが使
えないぶん神経を使うこと、またレイテンシー(通信による遅れ)によって反応をそっけなく、
あるいは不注意に感じることがあることなどから、余計なエネルギーを使うとする専門家の意
見を紹介しています。また、アイディアを発想する場合には五感による刺激を活用することが
有用であり、オンラインではそれらが限定されるため創造性が上がりにくく新鮮な着想が得ら
れないという意見もあります。

試みにGoogleで「理想的な打ち合わせの長さ」「理想的なオンライン会議の長さ」を調べる
と、それぞれ「45分」「30分」と出ます。総意として少なくとも、オンラインイベントのほ
うが長くてもよい、と考えている人は稀なようです。

 Googleの検索結果:「理想的な打ち合わせの長さ」

 Googleの検索結果:「理想的な打ち合わせの長さ」


 Googleの検索結果:理想的なオンライン会議の長さ

 Googleの検索結果:理想的なオンライン会議の長さ


しかしそれはイベントタイプによるのかもしれず、また「本当は会議を短くしたい」と願う心
理がそうさせるのかもしれません。1対1の雑談も交えた会話やいわゆるZoom飲みは、オンラ
インのほうが長引くことも私にはありました。時間が経つのを忘れるようなイベントではまた
違うのかもしれません。

それに加えて最近私が思うことは、オンラインイベントが向く人とそうでない人がいるだろう
なということです。最近「整体対話読本 ある」という本を読みました。その名の通り整体に
関する本なのですが、非常に説明の難しい本で、不思議な読後感があります。出版元である
曜社のウェブサイト
からひとつ書評を引用してみます。

 初めて知る話もなぜか実感を伴って理解できるのは、体は既にそれを知っていたからだろう。
 まさに身に覚えがあるという感覚が近い。


この本に話し手として登場する川崎智子氏が身につけた野口整体の「体癖」という概念は人間
の感受性の癖を12種類に分類したもので、体の偏り方を分析するとその人の嗜好をはじめ様々
な特徴が説明できる、とするものです。人間は多様な概念を、体の使い方を通じて理解し「体
得」する、という性質があるため、その類型を体に現れた何らかの特徴から(ある程度まで)
読み取ることは確かにできそうに思います。

例えばこれを見ても、「考えが息詰まるとすぐ胃など体に現れるタイプの人」「じっとしてい
るとかえって疲れ頭が働かない人」「大変な世話好きで人間に限らずネコなどを拾って育てる
のが好きな人」などがいて、こうした人々にはたしかにオンラインの打ち合わせは向かなかろ
うと思います。私は比較的苦にも思わず、一人でオンライン打ち合わせが続いても鬱々とはし
ないように思います。おそらく体のタイプがまた異なるのでしょう。逆に思い返せば、私はカ
フェで仕事をしたり図書館で勉強したりすることがほとんどありません。コワーキングスペー
スを使うにしても、一人の部屋に籠もっているほうが快適です。一方で、場所を変えながらあ
ちこちで仕事をするほうが捗るという人もいます。仕事のタイプや年齢層だけでなく、そもそ
もの体のつくりで好む・好まないということもきっとあるのでしょう。

在宅勤務を採用するかどうか、今後もオンラインイベントを開催してゆくかどうかについて、
「元に戻そう」とする力が強く働くのは習慣による部分も大きいと思われ、それも当然である
と思う一方、今の状況のほうがありがたい人・状況・事態もありえて、それは一概に決まらず、
自由に選べることが何よりよい、という考え方も可能です。

BIMなどの設計手法や、設計の打ち合わせの仕方などにもおそらく同様のことが言えるので
しょう。あるソフトウェアの習得が非常に早い人は相性が良いのでしょうし、いままでに獲得
した方法論から変えることに人一倍不安を覚える人もいるでしょう。そうした人々のあり方を
尊重するには、強制しないことがおそらく有効で、しかしながらメリットを明確にして(半ば
したたかに)誘導することができるかどうか。そのようなルールづくりは設計行為だと私は思
います。設計職能はそうしたデザインにも必ずや役立つ部分があることでしょう。

18年かけてLRTを始めとした様々なコンパクトシティの施策を実現してきた富山市長に話を伺
う機会がありました。富山の抱える人口減少・高齢化・健康寿命の増進などに対し、数え切れ
ないほど多くのタウンミーティングと、メリットを明確化した誘導政策により課題を解決して
きたことは、おそらく市民ひとりひとりの多様な生活背景を尊重する側面を強く持っていたこ
とでしょう。

オンライン会議もBIMも、人それぞれに多様なのです。成果が出て充実していればまずはよし、
いろいろな模索で勝ちパターンを蓄積できる2020年になるとよいなと思います。

私が強く提唱したいオンライン会議パターンは、最長を50分にするということでしょうか。
次の会議までの間に隙間がないとトイレに行けず、しかもオンライン会議中にトイレに行くの
はリアルよりも余計に憚られる気がするからです。他の人はどうなのでしょう、みんな平気な
のかしら。それとも会議にサブアカで参加するとトイレも平気になったりするもんなんでしょ
うか……。

石澤 宰 氏

竹中工務店 設計本部 アドバンストデザイン部 コンピュテーショナルデザイングループ長 / 東京大学生産技術研究所 人間・社会系部門 特任准教授